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「演技」と「芝居」は違うもの~何故声優は「不自然な演技をする」と思われるか~

投稿日:2019年6月7日 更新日:

今のアニメ声優に求められる「芝居」の幅は狭い

では次に、声優に求められている演技力及び芝居の上手さの話を致します。

今の声優業界は、演技に比べてこの芝居の方が軽んじられていると判断せざるを得ない状況にあります。

声優が声を当てるアニメやゲームは、間合いの取り方や発声のタイミングがアニメ映像に完全に依存しています。キャラの表情や動きも映像が伝えるものです。あとで技術的な補正をかけることも可能です。

以上のことから、声優は映像に合った声を出せていれば、とりあえずは成立してしまうジャンルです。芝居が下手でも、演技が上手であればこなせます。

昨今ではスマホアプリの仕事が中心となっている声優も数多くいて、これらはそもそも映像ではなく立ち絵に声を当てますし、やり取りの進行スピードはプレイヤーの遊び方によって変わります。声も個人が別々に収録していることが多いはず。芝居の妙を感じるという角度から言えば、土台にも上がっていないと言ったところでしょう。

ですので、ある一定のやり取りを成立させられるレベルの会話力と距離感の測り方のノウハウさえ持っていれば、それを全て流用することで演じ分けることが可能になってしまいます。最近は求められるキャラクター性や関係性の類似も激しいことから、余計に求められる芝居の幅は狭まっているはずです。

関係性の構築の仕方を勉強することで「最大の演技」以外のコントロールが可能になり、演技の幅ももちろん広がって行きます。他人を巻き込んだ芝居の上手さこそが、自分だけの演技の上手さをより幅広いものにしてくれるのです。個人収録が多くなっている今の若手声優さんは、それを学ぶ場があまりないのかもしれません。

ベテランの声優さん達が今の若手声優を指して「最近の若手は芝居ができない」と苦言を呈し、オタク層から老害扱いされたりすることがありますが、僕はベテラン声優らが言う「芝居」とはこういったやり取りのノウハウのことを指しており、素人の考える「演技力」とは別のことを言っていると思っています。実際に「今の若手は本当に演技が上手いけど…」がセットのパターンもあります。

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こういった経緯により、今の声優さんは「最大の演技」を「一定の芝居」でしか行えない役者だと思われてしまっており、芝居力こそが役者の本懐とされる業界内では、役者の中でも「レベルが低い」と誤認されているきらいがあるのです。

これは声優さん本人に問題があるわけではないですし、誰かが悪いといった類いの問題ではありません。そういうものが活動場所の需要の中心になっている以上起きてしまう、仕方がない結論だと思います。

創る側も売れるものを創らないといけないですし、声優さんを起用するのにもお金がかかります。拘束時間で声優を起用するお仕事の場合はなるべく早く収録を終わらせたいと思うのが普通です。なので「変じゃなければOK」で済ませてしまうこともあるかと思います。関係性の追求にはどうしても時間がかかりますから、短い収録時間の仕事でこだわることはできませんし、声優がそこから学ぶのも難しいです。

ポジティブなことを言えば、それこそが「声優にしかできない演技」ですし、短い時間でクオリティの高い声を提供する技術は、他の分野の俳優さんには体現できないものでしょう。それを踏まえてジャンルの住み分けの一環と取ることもできます。

ですが役者として生き残り仕事を獲得し続けようと思う場合、演じ分けのバリエーションの豊富さは必要不可欠なもの。そのためには演技力だけではなく芝居力を強化する必要はあるのです。受け手・創り手にとっては、後から後から演技力が高く、上手い人が出てきてくれれば同じ人が出続けていなくても困らないのですが、声優本人達にとっては死活問題です。

今の声優業界は、芝居ができなくても演技力があれば仕事が取れてしまう状態。声優デビューへの間口は広いと言えます。ですからその状況に満足してしまう人もいるでしょうし、そういった仕事で手一杯になってしまい、そこまで頭を回すことができない人も多いでしょう。

だからこそ、若い内から演技力だけでなく芝居力を底上げすることへの意識を高められるような動きを、より活発にして行く必要があるのかもしれません。それが足りていないことをベテラン声優の方々は憂いている、そう感じるような発言も数多く見られます。

「演技」も「芝居」も本当に上手い人が活躍している

以上の観点から、声優は役者の中でも「演技が上手いが芝居は下手」というようなレッテルを貼られてしまっている可能性が高く、それが「声優は不自然な声で過剰なわざとらしい演技をする」といった偏見に繋がってしまっているのではないかと思います。

昨今はアニメでもリアリティのある作品を創って、オタク層以外にも見てもらおうと思っている作品が増えてきています。その結果、声優演技を求められない大作(狙い)アニメ作品での声優の起用が躊躇われるのも少し理解できてしまいます。

ですがそういった偏見の通りではない人も沢山いますし、むしろ一線で活躍している人についてはそうではない人の方が多いと思います。

僕の過去の経験の話ですが、声優を目指していた頃は"超上手"から"超下手"まで本当に様々なレベルの人に出会いました。その中には事務所に所属して声優として頑張っている人もいますし、今では有名声優になった人もいて(※直接の知人ではない)その人のお芝居を直で見たこともあります。

断言できるのは、プロになっていったのは養成所の中でも「演技も芝居も抜群に上手かった」人達ばかりでした。

養成所レベルでは、両方持ち合わせている人でないと基本的には事務所に入ること自体が無理でした。見た目が良い、若いなどの将来性を買われていた人ももちろんおりますが、ルックス重視でも、演技面で光るものを持っていない人はそこ止まりという感じ。

そういう実力者としてデビューした人達の中からでも、世間で名前が挙がるような声優になれる人は極わずかしかいません。下手だと言われる人もいます。「養成所ではあんなに上手かったけど、プロの世界では売れられないんだな」と思うような人も当然珍しくありませんでした。

受け手として見ると、プロの世界で輝いている人達にも「プロの中で比較して下手だ」と辛辣な言葉を投げかけることは簡単です。でも、役者全体で見ると一線で活躍している声優さん達は皆、ありえないくらい高いレベルで"上手い"人達には変わりありません。

舞台役者の方が演技が上手いとされる傾向がありますが、下積み時代に舞台経験を重ねている声優も多いですし、無くとも挑戦すればできるようになる人がプロになっていると思います。

いわゆる声優演技しかできない声優は、実際には少ないはずです。ただ「それしかやらせてもらえない」ことは多いのではないかと思っています。演技も芝居も場数が物を言う側面はありますから、同じようなことをずっとしていればそれ以外のことを身に付けるのは難しくなります。学ぶ場が少なければ、どんなに才能があっても伸び辛くなって行くでしょう。

後になってから身体に染み付いたこと以外に挑戦するのは大変ですし、それを披露する場を見つけるのも大変です。この背景があるから役者として「それしかできない(下手)」と判断されている声優も数多くいて、それが声優のイメージを決定付けてしまっているところもあるのだと思います。

転じて俳優の方が関係性の作り方が上手いと思われてしまい、日常会話や細かい感情の機微が必要とされる大衆向けアニメでは、メインキャラを俳優に任せた方が良いという判断が正当性を帯びたりするのかもしれません。本職の積み重ねはそんな単純なものではないとも思うのですが、パッと見の印象の与える影響は大きいということでしょう。

声優とは最も尖った演技ができる才能を持つ者故に、そのコントロールが上手くできないと若干の使い辛さを醸すものです。だからこそ、そのコントロールを身に付ける場を用意し、芝居力を磨くことで様々な媒体で活躍できる優れた役者の集団とも思います。

アニメ文化の特異性から一線引かれて考えられてしまっている節がありますが、物凄く卓越した技術が求められる業界です。彼らの持つ技術の下地がより正しく評価される場が、今後増えていくことを願わずにはいられません。

おわりに

「演技」と「芝居」の違い、そこから見える声優という存在について僕なりの分析を書かせて頂きました。

今回の記事では詳しく触れておりませんが、この「演技」と「芝居」の両方を高いレベルで必要とされるのが舞台演劇です。なのでテレビ俳優も声優も「演技力を向上する」という目的込みで舞台演劇に挑戦されている方が数多くいらっしゃいます。1つの演目を時間をかけてじっくり練習して、生のお客さんの前で披露して拍手を浴びるというのは格別の経験です。最近は仕事が少ない若手に舞台を踏ませて、地力を付けさせる事務所も多いようですね。

ひとえに役者と言っても求められる技術や素養が異なっていて、やはりその分野を専門にしている方々に任せるのが最も高いクオリティを担保できるのに間違いはないと思っています。その中で、声優という存在は未だにその存在が軽んじられているところがあると言わざるを得ません。

声優業界は正に群雄割拠。それだけ表舞台に立てる人のレベルはどんどん底上げされてきているにも関わらず、その性質から業界内での偏見が加速することがあるとしたらとても悲しい話だと思います。最近の若手声優さんなんかだと「これで未成年だと…?」と思わせるほど上手な実力者も数多くいますから…。

オタク層の中にも、供給過剰気味で使い捨て傾向が強まっている極端な声優の起用スタイルを快く思わない人も徐々に増えてきているように感じます。今より少しだけでも深い見識を持つ人が増えれば、声優の技術力・演技力の高さがより正しい形で世に広まるのではないかと思い、経験者として書けることを記事にしてみました。

僕も声優を目指していた頃は「演技」の上手さばかりに固執して「芝居」の上手さに理解を及ばせることがあまりできておらず迷走し、苦い経験をした思い出が沢山あります。そういった経験からこれらを分けて考える頭が出来上がり、今ではドラマや映画、アニメを楽しむ時には役者さんの良さを様々な角度から楽しめるようになりました。

この記事が演技未経験の方達の「演技」や「芝居」への理解を深めるものであったら幸いです。以前に声優を志した者としても、1人の書き手としても、声優の地位向上が実現することを願っています。お読み頂きありがとうございました。

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