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【超感想】映画『すみっコぐらし』現実の先の幸せへ 温かさに包まれ尽くす優しい世界

2019年11月15日

引用元:映画『すみっコぐらし』キービジュアル

ネットで話題沸騰中の『すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』。

時間が噛み合ったので早速見て参りました!
上映時間が66分程度と、隙間の時間で鑑賞しやすいのがグッドでした。

一言で言えば「素晴らしかった……」としか言えない映画。
噂に違わぬクオリティで号泣待ったなしといった具合。

しかしこの『すみっコぐらし』、「子供向け作品だと思って観に行ったら○○だった」と言ったセンセーショナルな感想を目にする機会が多く、鑑賞に当たり身構えてしまっている方も増えているのではないかと思います。

気にはなっているが観るのがちょっと恐い…といった意見の他、「そんな作品ではない」のような現在のバズり方に難色を呈す方も見受けられるなど、作品の評価とは逆に殺伐とした空気を醸し始めているのも気になります。

確かに単純な話ではありませんが、決してダークで恐ろしいストーリーが展開されるわけでもない。心温まる優しい世界がひたすら体現され続ける映画なのは確かです。そしてそれがこの作品の最も良いところであるのに、なかなか伝わっていないと思われます。

しかし現在ネット上にはこの作品の"本当の良さ"を細かく解説した記事などがほとんどありません。これでは伝わるものも伝わらないまま。ならば、ここは1つ書いてみようではありませんか。

映画『すみっコぐらし』を観て感じた、この作品の本当の素晴らしさ。ストーリーのネタバレはなしでしたためさせて頂きます。

何となくどのような要素のある作品であるかには触れて行きますので、予備知識ゼロで絶対に観たいという方はご注意を。ご理解の上、お付き合い下さいませ。

隅っことして前向きに生きるキャラ達の物語

僕の持つすみっコぐらしの知識は、「ゲームセンターのプライズでよく見かける可愛いヤツ」程度です。キャラのことや元々持っている世界観、ストーリーなどは一切知らずに鑑賞しました。よってタイトルは「ミリしら感想」とさせて頂きました。

その上でこの映画を観てまず分かったのは、彼らは世の中の"すみっコ"に位置する存在=主役になれなかった存在がキャラクター化したものだということでした。

だから彼らが持つキャラクター性は少し卑屈だったり、悲しいものだったり、光り輝いているわけではありません。でも、そんな境遇の中で1匹(という数え方で良いのだろうか)として後ろ向きなキャラクターはいないのです。

皆前向きに一生懸命生きていて、すみっコとしての幸せを手に入れることを目標にのんびりと歩んでいます。その姿がとても愛らしく、勇気を与えてくれるものでもある。

映画『すみっコぐらし』はそんな彼らが主役として活躍する物語。ですので、すみっコ達のキャラクター性をフィーチャーした物語にしなければなりません。

それはつまり「世界のはぐれ者という現実と向き合う物語」だと言えます。それと向き合った上で、どう動くことが幸せに結びつくのかが、作中で丁寧に美しく語られます。

映画1本通して優しく温かい世界の中で、厳しさに負けない彼らのが前向きに紡がれて行くのです。

その一部分を切り抜くと酷く残酷な要素に見えたり、現実的で救いのない物語のように見えなくもありません。それがネットでセンセーショナルな表現を持って拡散され、今のカルト的な人気に繋がっていると言えるでしょう。

ですが、この映画の本懐はそこではないと思います。
あくまでも、その現実の先の幸せを求めて行く作品であり、最初から最後まで明るい温かさに包まれた映画なのは間違いありません。

だから変に身構える必要はありません。前向きで健気で愛らしいすみっコ達の冒険を、1人の大人として見届ける気持ちで鑑賞してほしいと思います。

すみっコ達が童話の主役に 新解釈の優しい世界が紡がれる

本作は正式タイトルに『すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』とあるように、絵本の世界でのお話がストーリーの軸となります。

恐らくほとんどの人が知っているであろう有名な童話をモチーフにして話が進むのですが、特徴的なのはその童話の主役格をすみっコ達が精一杯演じて行くという部分。

これはつまり「主役になれなかった彼らが主役として活躍する姿が描かれている」と言い換えることができます。この要素が本作の最大のポイントです。

主役は生まれながらにして主役。
その光り輝くスター性は物語を良き方向に進め、心躍る結末を沢山紡いできました。

その片隅で決して注目されることなく、ただひっそりと自分の世界を全うしていたのが彼らすみっコ達。それが突然、表舞台に立たされます。

当然、彼らには主人公として振る舞う術はなく、童話の筋書き通りに話を進展させることができません。内向的で情けない素振りを見せたり、大きなミスを犯してしまったり。目も当てられないような展開が続きます。

けれど、その中で彼らにしかできなかったことが幾つも見つかります。端役中の端役だからこそ持てている優しさがすみっコ達にはありました。

どんな状況下でも決して他人を見捨てることなく尊重し、自分以上に周りを救おうとしてしまう。そんな彼らだからこそ、本来の物語とは違った幸せな結末を紡ぐことができるし、オリジナルでは救われなかった人達を救うことさえできる。

正しい結末には辿り着けなかったけれど、これはこれで。そんな風に思わせてくれる優しい展開が目白押し。そんなことを繰り返して見つかった新しい仲間達は、後半に向けて大きな意味を持つ存在として積み重なって行くのです。

さらにその1つ1つが、ちゃんとキャラクターの個性に基づいた説得力のある展開になっていて、とにかく丁寧に物語が進行して行くのがこの作品の大きな魅力。大人が見ても非の打ち所のない、恐ろしくしっかりとした創りで物語が進みます。

すみっコ達が送る、すみっコ達の優しい世界。
この物語の面白さと数多くの人が涙を流す感動のラストは、是非劇場で。面白い映画を期待するより、心温まる映画を期待して観た方が、かなり高い満足度を得られると思います。

BGMを巧みに使った世界観演出

せっかくなので1つだけ僕が特に素晴らしいと感じた演出面にも触れておきましょう。

映画『すみっコぐらし』はキャラクターボイスが存在せず、少しの吹き出しとナレーションのみで物語が進行します。そのおかげで、キャラクター性を尊重したまったりとした時間が進みます。

そんなテイストを維持しながら、66分という短い時間で物語を完結させなければなりません。よって、展開自体は割とスピーディー。リズムの良いテンポ感を楽しめます。

その小気味良さを裏付けているのが音楽の使い方だと僕は思っています。

通常であれば役者の演技の緩急で体現する心地良さを、この作品では利用することができません。それを補完するかのように、細かく丁寧にBGMが創られて、使用されているのです。サントラ買おうかなと衝動的に感じるレベルでBGMが素晴らしい(映画館に売っていなかった)

一曲一曲がかなり短く創られていて曲数も多く、場面や展開に則した音遣いになっているのが特徴。他の作品ではあまり聞くことができないような自己主張の強い音楽で、『すみっコぐらし』の世界が彩られています。

主張が強いと言っても世界観やキャクラターを尊重した上でのこと。必要な部分はしっかり強調し、柔らかい部分はしっとりと演出する音楽達なので、とにかく作品との馴染みが良く、アクセントとしてあまりに素晴らしい活躍をしてくれています。

これから観に行かれる方は、是非音楽と映像の高い親和性も感じてみてほしいです。その上に乗っかることでさらに"良い味"を出すナレーションの奥ゆかしさもセットで是非お楽しみ下さい。

おわりに

映画『すみっコぐらし』は決して恐ろしい物語ではなく、厳しい現実をただひたすらに優しく温かな気持ちで包み込んでくれる作品です。

ちょっとだけ残酷な設定の先にある、優しさと幸せに包まれたエンディングは涙なしでは見られません。

前半で創り出したほんわかとした展開の全てがラストに向けて集約する壮大さを楽しめます。シナリオ創りのお手本のように丁寧に仕上がっていて、観るものを没頭させ唸らせるクオリティがあります。尺に対する全体構成、盛り上がり、展開力、伏線の張り方、どれを取ってもパーフェクト。

あくまでも子供向け映画ではありますが、子供向け且つCV無し・人間が出せないなどの限られた範囲で、絶対に面白いものを創りたいという製作陣の"ガチ"さが伝わってくる作品で、多彩なクリエイティビティに富んだ秀作と言えるでしょう。

子供の感性を狙い撃った作品ではなく「面白いものを創れば子供も楽しんでくれる」という方向性が強い作品だと思います。誰が観ても楽しめますが、個人的にはクリエイター気質の方や、そういった観点で作品を見るのが好きな方には特にオススメしたい作品です。

ネットで言われているような広まり方も必要だと思います。僕もそれがなければ観ることはない作品だったでしょう。しかし、それでこの作品の本当の良さが曇ってしまうことがあればそれも問題です。

それで作品感を誤解する人達が少しでも減るように、ネットのバズで知った1人として感想記事で一石を投じさせて頂きました。

これは「観ておいた方が良い!」と大声で叫びたくなる衝撃的な面白さがある作品ではありません。ただ、「観ておいて良い…」と囁きたくなるような充実感を感じられる作品です。

疲れた大人の心に水脈を宿す優しい世界に包まれ続ける66分間。

是非劇場でご体感くださいませ。

お読み頂きありがとうございました。

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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