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『MIU404』分析&感想 第6話 「リフレイン」"相棒"の心を照らし出す光

投稿日:2020年8月7日 更新日:

第6話は1つの真実が明らかになる物語。
志摩の人生を左右することとなった事件について語られました。

一部の人間から「相棒殺し」の悪名で呼ばれ、それを否定することもない志摩。しかしその裏に複雑な事情があることは、想像に難くありませんでした。

この作品における"相棒"の意味が変転する「リフレイン」。今回も読み解いて参ります。

対等な相棒

志摩が捜査一課に所属していた頃の元相棒 香坂義孝は、6年前に不審死を遂げている。これは確かな事実でした。

しかしそれが他殺か自殺か、どのような経緯で亡くなったかなどの情報は正しく共有されておらず。第一発見者が志摩であったことなどの状況証拠から、志摩は「相棒殺し」と呼ばれているだけのことでした。

そうであっても「志摩が殺した可能性」がゼロになるわけではなく、"隠された真実"が存在することにしたい人間(志摩を良く思っていない連中)が悪意を振りまいているという状況です。

「人は信じたいものを信じる」
2話の志摩の台詞は、彼が向けられている悪意その物の実感から来るものだったのかもしれません。

その事実を知らされないままに志摩と相棒を組んでいた伊吹。彼がひょんなことからその噂を耳にしてしまったことが、この6話全ての始まりでした。

徹底して口を割らない志摩でしたが、そこに"何かがあること"を隠そうとはしません。そして伊吹が何が何でも"それ"を知ろうとするのに、その反応は十分すぎるものでした。

それは伊吹が志摩の相棒として全力で職務に臨んでいるからで、志摩と対等な存在でありたいと願うからでしょう。

伊吹は軽薄で考えが足りないタイプではありますが、決して下世話な野次馬根性で動くのではありません。真剣に相棒のことを想うからこそ、彼の心の奥に潜むものを共有したいと思うのだと思います。

『MIU404』はバディものながら、毎回登場するゲストの心情が話のメインとなる作品でした。1話以来、いよいよこの2人をメインにした物語が動き出しました。

正義の在り処

元相棒の香坂は、刑事になるのを夢見ていた青年でした。

「刑事とは正義」
そんな夢と理想を追いかける若き感性。

しかし逸る気持ちを抑えることができない彼は、いつも空回りしてしまいます。一方の志摩はこの頃から冷静沈着。目標を的確に追い詰める優秀な捜査一課の刑事として存在感を持っていました。

バディとは2人で1つ。常に誰かに相棒と比較され、自分で自分を相棒と比較する。他の誰かよりも優秀かどうかは関係なく、ただそこにある1対1の関係に評価が左右されてしまいます。

故に香坂は息苦しい思いをしていたことでしょう。
年齢もキャリアも上で、実力もある完璧な先輩とバディを組むことになれば、彼は1つのミスさえ許されなくなります。仮に周りが許しても、きっと香坂自身がそれを許さないからです。

何とか成果をあげなければ。足手まといにならないようにしなければ。志摩さんに見捨てられないようにしなければ。そんなネガティブの感情の1つ1つが鬱積し、生まれた焦りは彼を独断専行に走らせます。

この時に彼らが追いかけていた毒殺事件の容疑者は、かなり高い確率で黒であるとされながらも、明確な証拠がないことから逮捕に至ることができていませんでした。その証拠を誰よりも早く掴めば、大手柄を上げることができる状態だったと言って良いでしょう。

だから香坂はその容疑者の逮捕に躍起になっていました。"正義"の名の下に悪を断罪する。そんな免罪符を掲げながらも、彼の心中にあったのは大きな自己保身だったに違いありません。

「今までのミスを帳消しにできるほどの価値」が、その容疑者には存在する。逮捕すれば自分は認められて、志摩ともバディを解消されずに済む。だから何が何でも彼女を逮捕しなければならない。

そんな自己保身と自己肯定、歪んだ行動理念の先で彼が選んだのは「証拠を捏造して容疑者を逮捕する」という選択でした。

状況証拠のみとは言え、限りなく黒に近いグレー。ならばそれを追い詰めるための物的証拠されあれば、確実な形で逮捕へ至れる。どうせ犯人なのだから、何が先かは関係ない。

香坂は独断捜査により容疑者と接触、その際に毒殺に使われたと思わしきタリウムを摂取させられたと思い込んでいました。その自身を検体とすれば利用した証拠は手に入ります。あとはタリウムを入手したことさえ証明できれば良いのです。

そうして彼は明確な証拠をでっちあげ、容疑者の逮捕を断行しようとします。そして志摩はその香坂の行動に気付き、彼に待ったをかけるのでした。

バディとしてのやり取り

実は志摩と香坂が疑ってかかっていた女性は、真犯人に気付いて場を引っかき回していただけの小悪党でした。香坂はその誘いにまんまと乗ってしまい、彼女を犯人だと決めつけてしまったのです。

冷静に考えれば犯人は絶対に捕まりたくないはずで、警察を挑発することなどあり得ません。そういった自信と趣向を持つ犯人に出会う可能性よりも、犯人でないからこそ遊んでいる一般人に出会う可能性の方がまだ高いでしょう。

だからこそ彼女を犯人だと断定して動くのは危険でした。人の人生をめちゃくちゃにしてしまうリスクがある仕事だからこそ、そこには慎重かつ確実な行動が求められる。刑事としての正義はそこにあるはずでした。

香坂は「正義のため」という暴論を振りかざし、自身の判断を盲信して過ちを犯しました。真犯人が同時期に逮捕されたから良かったものの、少しズレていたら"無辜の市民"を逮捕してしまったことでしょう。

そして冤罪が発覚すれば、芋づる式に香坂が偽の証拠をでっち上げたことも判明してしまいます。そうなれば最後、警察組織を巻き込んだ未曽有の大事件になるところでした。

それはギリギリのところで志摩の手によって食い止められました。結果として「香坂は志摩に救われた」形になっています。

しかし実際はそうだったのでしょうか。
志摩はきっと彼女が犯人でないことを視野に入れていたはずです。それをもっと早い段階で香坂に伝えることができていれば、このような事態に発展することさえなかったかもしれません。

そして元を辿れば、香坂が焦って成果を出そうとしてしまったことも、志摩とのコミュニケーションが不完全だったことが原因です。

志摩は論理と実務意識だけで淡々と結果を導くタイプで、感情や感覚で物事を判断しません。それが最も的確かつ正確に事件の解決を呼び寄せることを理解しているからです。

さらに志摩は、それを頭で考えて実際に遂行できる冷静さと思慮深さを持っていました。それ故に、志摩は誰かの感情の動きを考慮に入れて動くことが不得手だったと言えます。

多くの人は志摩のようにはできません。もっと悩み苦しんで、冷静でいようと努力しても感情に流される。若ければ若いほど、劣等感に苛まれれば苛まれるほど、人は気付かぬうちに正常な判断ができなくなってしまうものです。

香坂の失敗は志摩の失敗でもある。
バディである以上それもまた1つの真理であり、志摩はきっとその"事実"も意識していたことと思います。

ですがその流れの全てを含めて、志摩は香坂と適切なコミュニケーションを取ることができませんでした。それがこの6話で最悪の事件を引き起こします。

後悔先に立たず 心は苦しむ

香坂はその過ちの後、退職願を書き、自宅のあるマンションの階段から落ちて命を落としました。

事故か自殺か、はたまた他殺か。
"状況だけ見れば"不可解な転落死でしたが、その実態は司法解剖によってしっかりと明らかにされていました。

怪我の状態や遺体発見時の状況から、高所からの転落ではなく低所の階段を踏み外したことによる死亡が確定。酒に酔っていたせいで打ち所が悪く、不運にも命を落としたとのことでした。

自殺にしろ他殺にしろ、平常時であれば人は到底死なない高さ。あまりにも不自然です。"状況だけ見れば"100%事故死と断定して良い。香坂の死因はそのような受け入れ難いものでした。

ですが実際は分かりません。
あの時あまりにも大きすぎる過ちを犯し、人生の岐路に立たされていた香坂は自棄になっていたのかもしれません。飲めないはずのアルコールを大量に摂取していたのも不自然で、「死のうとして行動した」可能性も決してゼロではないのです。

その可能性を考慮してしまえる立場だったからこそ、志摩は激しく苦悩しました。

事故と断定して片付けられている香坂義孝の人生。その裏に隠れた感情の正体を、志摩一未は今でもまだ夢想しています。

仕事上の彼は常に冷静沈着。時に冷酷に仕事を全うできる青年ですが、決して感情や気持ちを理解できない人間ではありません。プライベートな部分を覗かせる時には、自身の豊かな感情を見せるシーンも多々あります。

でも彼は、自分のその感情を信じ切れていないのです。

自分が声をかけたところで、自分が行動したところで、大きな変化があるわけでもない。自分のことは自分で解決するべきだ。

そうやって1つ1つの機会をドライに処理してきた結果、香坂の死という最悪を招いてしまいました。

自分があの時違う方を選択していれば、彼の死を止められたんじゃないか。この結末を変えられたんじゃないか。後悔は先に立たず、突きつけられた現実は常に遺された者の心を締め付けます。

その事実と後悔は今でも志摩の抱える闇として、心の中でくゆり続けています。

"相棒"

そんな志摩の心の闇に介入し、真実を突き止めようと尽力するのが伊吹藍でした。相棒との不幸によって闇を抱えることになった、志摩の心を解きほぐすのもまた相棒だと言うのだから因果なものです。

ですが伊吹は決して志摩の闇を取り払おうとしたわけではありません。ただ自分の相棒のことを知りたくて、相棒と対等な関係になろうとした結果としてその闇に近付いただけだったのです。

難しいことは考えず、ただ「相手と共にあること」を最優先にして行動できる。辛そうにしているパートナーには、まず手を差し伸べる。後のことはそれから考えればいい。

そんな一見すると短絡的とも言える在り方によって、救われる者もいます。思い立ったらまず行動、それが幸福を呼び込むこともあります。

何もしなければ救える可能性はゼロですが、何かをすればそこに1%が宿ります。そしてその1%が、最悪を回避する道標となることもあるでしょう。

今回伊吹はその無鉄砲な行動力で志摩の隠していた真実を突き止め、それはさらに大きな発展を遂げて「志摩の知り得なかった真実」にまで辿り着きました。

確たる行動で相手の心に寄り添うことを避け続けた志摩は、伊吹の行動によって"それ"が体現する温かさの意味を知りました。

そしてそれをギリギリのところで掴み取ったのは、今度は相棒の言うことを汲んで彼の元に駆け付けた、志摩一未自身の行動だったのでした。

最期に見せた光

香坂の死因は事故死。
その前後は分からず、彼は失意の中で死んだに違いない。

そう思っていた志摩でしたが、その現実は違いました。

彼はあの日、マンションの屋上で志摩の好きなウィスキーを片手に志摩が来るのを待っていました。彼に直接会って、伝えたいことがあったのでしょう。そこに志摩が現れないだろうと感じていただろうに、彼はただその場で相棒が来るのを待ち続けました。

そしてその場で見てしまいました。隣りの建物で女性に襲い掛かろうとする1人の男性の姿を。

彼はその犯罪を止めるため、女性を助けるために即座に行動しました。その記録が見つかったことで、彼が救助の過程で亡くなったことが判明します。

慣れない酒に酔いながらも急いで現場に駆け付けようとしたことで、階段から足を踏み外すというあまりにも不幸な事故。受け身を取ることもできず、彼はそのまま命を落としました。ですが、その事実によって1つ分かったことがあります。

それは「香坂義孝は最後の最後まで"正義"の存在として在ろうとしていた」こと。彼は失意の中で亡くなったのではなく、最期まで自分の使命を全うしようとして生き抜いた1人の戦士だったのです。

自分の考えていた予想とは真逆の真実に、志摩の心は揺さぶられました。

香坂は亡くなってしまったが、その香坂がいなければ失われていた別の命がある。その命は、香坂があの日あの時に屋上で志摩を待っていなければ、きっと救われることはなかったでしょう。

彼の過ちは巡り巡って、別の"正義"を体現していました。その想いは正しく遂げられることはなかったけれど、その先の行動は間違いなく1つの"最悪"を回避させました。それもまた、彼が正義に生き抜いた証であることに違いありません。

失われた過去 進むべき未来

「ずっと来られなくてごめん」

香坂の遺体が転がっていた階段の下で、志摩はようやく彼の"死"と向き合いました。

「俺は…お前を…弱い奴だと思った。刑事には向いてない。弱い奴だって」

全く分からなかった真意を知って。彼が決して絶望の中で命を落としたわけではなかったことを知って。志摩は彼の心に語りかけることができたのです。

「だけど俺は…あれからウィスキーが飲めない」

それでも志摩は悩むでしょう。彼の過ちが1つの命を救ったとしても、彼が死ぬ必要があったわけではない。少なくともあの時に志摩が屋上に足を運んでいれば、「女性を助けながら志摩の死を回避する」という最良が導けたのですから。

「俺も大概、弱かった」

たった1つの死が、強かった人間の心を変える。そして一度弱ってしまった人の心が、再び元通りになることはありません。弱い心を何かで覆い隠して、気付かないように包み込んで、騙し騙し変わらない自分を演出し続けるしかないのです。

「今機捜で星を追ってる。彼らに偉そうに言葉をかける。…その度にすっげぇブーメラン」

それでも志摩は刑事を辞めません。それは亡くなった香坂への贖罪のためか、自身の心を保つためか、それとももっと別の使命感か。闇を抱えたまま、彼は今でも戦い続けています。

「俺にそんなこと言う資格があるのか?俺こそが裁かれるべきなんじゃないか?」

志摩は決して悪いことをしたわけではありません。ただ彼は彼なりにベストを尽くそうとして、それがたまたま上手く噛み合わなかっただけのこと。

それでも彼は自分を責め続けています。

自分の行動の全てを過ちとして、自分も他人も信じずにただ目の前の仕事に淡々と向き合う。そんな優しさと生真面目さに支配された人間性が、彼の憶測には眠っていました。

「お前の相棒が伊吹みたいな奴だったら…」

だから常に彼は考えます。
それ以外の可能性を、自分が取り零した理想の未来を描ける存在を。

自分という存在を否定し続けることで、彼はそうではない人間を肯定します。

「生きて…刑事じゃなくても…生きて…やり直せたのになぁ」

失われた者は戻ってこない。どれだけ悔やんでも過去は変わらない。それでも、後悔はその後の未来を大きく変えることがある。

過去を振り返りトラウマに苛まれながら、関わった者のより良い未来を導く。それこそが、生きて遺された者の使命なのかもしれません。

「忘れない。――絶対に忘れない」

闇は完全に取り払われることはありません。しかしそこから抜け出すための光を手に入れて、志摩一未はまた新たな一歩を踏み出し始めました。これから待ち受ける更なる困難もあるでしょう。でもきっとそれらとも今までとは違った向き合い方ができるはず。

「ま、安心しろ――俺の生命線は長い!」

何故なら彼の隣りには、今その光を照らしてくれる"どうしようもない相棒"がいるからです。絆を深めた彼らのこれからの活躍に、さらに期待して参りましょう。

「殺しても死なない男、それが伊吹 藍!」
「…今心の底からイラッとした」
「なんでよ! なんでそうなるかなぁ」

おわりに

第6話はこれぞバディもの!という内容で、2話~5話とは一線を画する内容に。この6話を1つの転換点に、志摩と伊吹の関係性も大きく変化して行くことでしょう。

そして毎話、物語の終盤で展開され繋がって行く伏線の数々。それらが描き出すこの作品最大の難題の出現は、きっとすぐそこまで迫っています。

見落としがちですが実はまだ伊吹の過去も全くと言って良いほど語られておらず、この辺りも含めた物語展開が期待されます。

残り話数も少なくなってきましたが、ジェットコースター的展開で魅せてくれるこの作品。クライマックスに向けた急降下の所在に期待します。

それではまた次回の記事でお会い致しましょう。お読み頂きありがとうございました。

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