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『MIU404』分析&感想 第4話 逃れられない呪縛の果て「ミリオンダラー・ガール」に託された希望

投稿日:2020年7月23日 更新日:

中盤の入り口に位置する第4話。
ストーリー上の「分岐点」が描かれた前回を踏まえて、より深まった物語が描かれることが予想されました。

お金と女性の問題が絡み合い、裏の裏のそのまた裏で予想外の結末を描いた「ミリオンダラー・ガール」。その中身を今回の主役とも言える青池透子の人生に寄り添う形で、紐解いて行きましょう。

逃れられない呪縛

裏カジノの関係者として逮捕され、前科一犯の刑期を終えたばかりの青池透子。

この4話の主役は世間的には犯罪者。しかし同時に同事件の被害者でもありました。

元ホステス、客の斡旋で暴力団の動かす裏カジノにハメられてしまった青池は、多額の借金を背負わされて風俗へ。少しでも早く返済したいと考えた彼女は、そのカジノのスタッフにも従事することになりました。

最初は被害者だったはずの彼女は、裏カジノ経営の一員にもなってしまった。そのせいで関係者の1人として逮捕されることとなりました。

ですが逮捕される時の青池の表情に、困惑や絶望はありませんでした。むしろ彼女は達観と安堵の入り混じったような表情を浮かべて、その状況を受け入れたのです。そこから、逮捕に至るまでに彼女がどれだけ大きな絶望を経験してきたのか。裏事情に想像を及ばせることは、難しくありません。

執行猶予を終え、ようやく暴力団から解放された彼女。待っていたのは一般社会の出迎えによる安寧ではなく、逃れられない呪縛の残滓でした。

やっと見つかった就職先は、一般企業の皮を被った暴力団。会社ごと買収されたその企業は、マネーロンダリング(※入手先が歪んだ金銭を、問題のない状態に変換すること)の隠れ蓑にされていました。

彼女がそれに気付いた時には、業務の一環としてマネーロンダリングを行わされていて。一般社会に復帰できた気でいた彼女は、より深いところで暴力団の悪事に加担させられてしまっていたのです。

ただ"普通の生活"のために

「笑ってしまう。私はまた、暴力団の下で働いていたのか」
「ようやく普通の生活を…手に入れたと思ったのに」

それを悟った青池透子は、暴力団に協力していることを知りながらも仕事を辞めることはできませんでした。

この事実を警察に通報すれば悪事は明るみに出て、関係者は裁かれる。自分は犯罪者ではなく、被害者の1人としてこの状態から逃れることができる。

でもその後は一体どうなるのか。前科を持っての就職活動は困難を極めていて、今の会社だってようやく見つけた就職先だった。

次があるとも限らない。次がまともな会社とも限らない。警察は、自分の就職先を見つけてくれるわけじゃない。

そんな思いから青池は、仕事を辞めることも通報することもできませんでした。ただ悪事の片棒を担いでいる自覚を持ちながら、日々の"普通の生活"のために自分を騙して働き続けます。

「もう風俗に戻りたくない」

それだけの地獄を彼女は見て知って、経験してしまったから。それが外側から見たらどんなに愚かな選択に見えても、馬鹿だと罵られることだったとしても、もう彼女にはそうすることしかできなかった。最悪を回避するために、最低に甘んじるより他なかったのです。

余裕がある人には、余裕のない人の本当の気持ちは分かりません。彼女がどれだけ追い詰められて絶望していたのか。それを理解してあげられる人が、この世にどれだけいることでしょう。

普通の生活の幸せ、一般職への熱意を滲ませた投稿が連続した彼女の「Tubutter」アカウントは、気付きと共に真っ黒な闇を表出させることになりました。

そして程なくして、彼女は新しい犯罪に手を染めることになってしまいます。

"普通の人"が考える"重罪人"の正体

マネーロンダリングの業務に慣れ切った彼女は、そのお金の一部を横領することを考えました。

流れてゆく大金の一部を削ぎ取って、自分の懐に収めて行く。元から汚いお金であるからこそバレたところで罪に問われることはありません。訴える側にとっても、警察の介入は身を滅ぼしかねない選択だからです。

全くバレないことに味を占めた青池は、日に日にその金を現金化して最も身近な社内デスクの引き出しに隠します。あまりにも大胆な方法でしたが、それはつまり自宅にいるより会社にいる時間の方が長い…ということなのでしょう。

「私はまた、すっかり汚れてしまった」

現金を貰った政治家も、賄賂を貰った役人も起訴されない。どんなに公にされても、市民に叩かれても、元から金と権力を持っている人たちは何をしたって許される。

その一方で自分は必死に働いて手取り14万。汚いことをしたかったわけじゃないのに、気付けば汚いことから逃れられない人生で。その差に彼女はただただ呆然とするしかありませんでした。

「どうせ汚いお金だ。汚い私が使って何が悪い」

心にも懐にも完全に余裕が無くなった人間が、自暴自棄になるのは決して不自然な事ではありません。けれど、どんな理由があろうとも犯罪は犯罪です。1億円にも昇る私的横領は、全国に報道されることになるであろう重い罪です。

青池の持つものが汚いお金であることを世間は知りません。お金の綺麗汚いは誰かの目で判断できることではなく、ただ「知っているかどうか」。それだけです。だから世間から見た彼女は、ただ私利私欲を満たそうとしただけの重罪人です。

「引き出しが一杯になったらどこへ行こう!?」

有象無象の1人でなく「青池透子」という個人が罰せられる明確な罪を犯して、それでも彼女は現実逃避を続けます。

どうしてそんなことをするんだろう。どうしてこんな人が存在するんだろう。前科を持ってる奴は、やっぱりどこまで行っても悪人に違いない。そんな余裕のある"普通の人"が考えられる犯罪者像の中に存在したのは、いつ自分が同じ立場になるとも限らない"普通だった人"の影でした。

「どこなら…"綺麗"に生きられるだろう…」

絶望に絶望を重ねた先で、彼女は最期の刻を迎えます。「"綺麗"に生きたい」という願いは叶わないままに、彼女の人生はロンダリングされることなく幕を閉じることになったのです。

同じ地獄の経験者として

亡くなった青池透子の持っていた1億円は、彼女の手元にはありませんでした。

彼女はその1億円で宝石を購入し、自分が手縫いしていたうさぎの編みぐるみの目として利用していました。それを持ったまま、国外逃亡を図る。そのような計画でした。

現金で宝石を購入すれば、そのお金の出所がどこなのかは誰にも分からない。宝石商に迷惑がかかることもなく、横領したお金は見事にその場でロンダリングされます。暴力団のお金を洗浄し続けた彼女が最後に行ったのは、過去最高額であろう自分の横領したお金だったとは皮肉なものです。

しかしその逃亡は果たされないまま彼女は逝去し、編みぐるみごと1億円の宝石もどこかに消えました。

一体彼女はその宝石をどうしたというのでしょう。自分が死ぬことが分かった時点でどこかに捨てたのでしょうか。それとも誰の手にも及ばないところへ隠したのでしょうか。

その答えは彼女が逃亡中に残した血痕、その先の看板の内容にありました。

「逃げられない 何もできない少女たちに」

女の子だからと後回しにされて、まともな人生を送ることも許されない。生きる権利と尊厳を平等に与えられていない。そんな少女たちが世界に大勢います。

そんな恵まれない少女たちを救うために募金を募る団体「ガールズインターナショナル」。それが彼女が1億円を利用する先として選んだ場所でした。

今の怪我の状態では逃亡なんてできるはずがない。病院に行って治療を受けたら捕まるだけ。ならばせめて持っている1億円を有意義なことに使いたいと思うのは、自然なことだったのかもしれません。

「私これまで、ぜんっぜん余裕が無くて…あの募金とか、したことなかったんです」

全てを心に決めた青池透子は、この上ないほど嬉しそうに「編みぐるみ」を配送センターの窓口から郵送に出します。それが彼女にとって生まれて初めてできる、「誰かのために」を実現する行動だったのでしょう。

良いことをするには経済的余裕と心の余裕が必要。生活に余裕がなく、生きること自体に必死になり続けてきた青池透子は、誰かを想って行動することなどできるはずがありませんでした。

「だから…最後に1つだけ…!」

それが今この瞬間は大金を手にしていて、"幸運にも"自分のことを考える必要がない状況に身を置くことができている。

だから彼女が取る行動は1つだけ。

「お願いします!」

地獄を経験した彼女には、看板の先にいる少女たちの地獄を想像できる。逃れられない運命に身を置く虚脱感を、共有することができる。

その想いだけを原動力に、彼女は最後の賭けへと身を置くことを選びました。

絶望の中に見出した希望

「もう死ぬみたい 詰まらない人生」

彼女の生きてきた証、歩んできた系譜。その1つ1つは決して幸福なものではなかったかもしれません。けれど、積み重なった"人生"はその人にしか描けない、たった1つの成果を結実します。

「誰が決めたの」
「弱くてちっぽけな小さな女の子」

生まれながらにして人は自由であるべきで、その生は個人の意思によって尊重されなくてはなりません。それが理想であり、人間が理性を持つ生き物である以上、果たさなければならない使命でもあります。

「逃げられない 何もできない」

でも現実はそうではありません。
生まれてきた環境によって人は縛られ、個性によって迫害される。誰もが生き辛さを感じるその先で、絶対にどうしようもできない闇に身を置かざるを得ない人たちがいます。

それは当事者にしか分からないことで、無関係の人にとってはただの対岸の火事。「可哀想に」と言いながら、自分はそうでなくて良かったとわずかな安堵に浸るだけ。皆が皆生きるのに必死で、助けてくれる人などいはしない。

「そんなの嘘だ」

でも、もしその中で手を差し伸べてくれる人がいるならば。

自分と関係のない他人に、救いを施す"善意"が存在するのならば。全く違った未来を辿る命が、世界には無数に存在している。

「自由になれる」

生死に関わる瞬間に直面した時、人の本当の姿が見られる。志摩は冒頭でそう語っていました。そして青池透子が死を覚悟した時に持った感情は、「人の役に立つことがしたい」という人としてあまりにも善良すぎるものでした。

自分が助かることよりも、自分以外の人を助ける道を選ぶ。どうしようもないはずだった彼女の"人生"が導いた、光ある結論。その想いを胸に彼女はただ前を向きました。

「私が助ける」

それからの彼女は国外に逃亡するために逃げていたのではありません。1億円の宝石が日本を離れるまで暴力団を引きつける。それだけが、残された時間で彼女が最期の望みを叶えるためにしなければならないことだったのですから。

「最後に…1つだけ」

自分と暴力団員を乗せたバスが道を外れ、宝石の載ったトラックが光へ向かって昇り行く。その姿を見送った彼女は、満足そうに目を閉じました。

結局、彼女個人の願いを遂げることはできなかったのかもしれません。けれど彼女は、心に抱えていたわだかまり、人生の後悔を残すことはありませんでした。

大きな絶望を抱えたまま、失意のままに死んでいったと思われた青池透子が最期に見たものは、紛れもない"希望"なのでした。

人生の意味を決める者

「彼女の人生は…何だったんだろうなぁ」

事件の真相を知った志摩は、そう小さく漏らしました。

そう、冷静に考えれば考えるほどに、この事件は何1つ良いことが起きていないのです。

青池透子が送った宝石は、結局は汚いお金に違いありません。出所は誰かを傷つけて得たかもしれない暴力団の資金で、その一部を私的横領という形で着服した1億円。恵まない少女たちに送られたのは、そんな曰くの付きすぎた金銭に他なりません。

法的には宝石に替えた時点でロンダリングが済んだ物品であり、「問題がない」とするのは簡単です。知りさえしなければ、彼女が送った宝石は大変にありがたい寄付として受理され、たくさんの少女の人生を救うでしょう。

ですがそれが何かの拍子に分かってしまったら?日本の警察は既にその経路を辿れているわけですから、宝石を回収することも可能なわけです。実際にそれが行われるかは別として、団体に勧告を出すことは簡単にできてしまいます。

横領した1億円を掴まされて、さも悪事に加担したかのように詰め寄られた宝石商のように、知ってしまったらなかったことにすることはできません。そしてそのリスクは常に付きまとっています。

汚いお金を使って、良いことをした。
その事実の矛盾に気付いてしまったら、この話を一側面だけで「希望」とも「絶望」とも表現することはできないのではないかと思います。

志摩の言葉は、その第三者としての感情を言い表したものだったと僕は感じています。

「なに言ってんだよ志摩ちゃん」

そんな複雑そうな表情を浮かべる志摩に対して、伊吹はあっけらかんとした顔で彼の言葉を否定します。

「そんなん俺たちが決めることじゃないっしょ?」

客観的事実だけを見て語れば、彼女の人生の意味は一言で断じられない虚しいものです。ですが結果として青池透子は満足して死んでいった。その事実は変わりません。

彼女の人生がどんな意味を持って、どんな結末を辿ったのか。それを本当の意味で理解しているのは彼女の心だけ。死人に口なし。その中身を邪推して勝手に決めるのは無粋だと、伊吹は割り切って答えたように見えました。

もし青池透子がもう少し考える時間を持ってしまったら、自分の行動の矛盾に気付いてしまったかもしれません。しかし彼女はそんなことを考える時間もないままに、静かに息を引き取りました。きっとそれは、彼女の人生にとって幸運なことだったと言って良いのでしょう。

ならばこそ安らかに。
彼女の人生が報われたことを祈って、この物語は幕を引く。そうするべきだと思わされました。

他人から見ればちっぽけなことかもしれない、事情を窺い知らない人には嗤われるかもしれない。それでも彼女は、ただ"満足して死んでいった"。その事実以上に必要なものは、今はきっとないのだろうと思います。

お金の「綺麗」「汚い」は知っているかいないかに過ぎない。100%の善意によって届けられた汚いお金。助けられた「ミリオンダラー・ガール」たちは、その先でどんな光を手にするのでしょう。

犯罪はどんな理由であろうと犯罪です。青池透子の人生は、その報いを受ける最悪の形で終わりを迎えました。それでも、その善意だけは何かの形で報われてほしい。その未来に"希望"を託す物語が、第4話の中にはありました。

おわりに

第4話はその話の中で展開された全ての要素が絡み合い結論に着地する物語。

死への達観を見せる志摩の態度に始まり、闇カジノを告発したことで追われる身となって、桔梗隊長の家に匿われている羽野麦の存在など、今後への伏線も含めた様々な感情が交錯する内容でした。

主題の他にも「多を助けるために少を切り捨てる」という正義の在り方や、その決断が辿る新たな禍根の行く末など、『MIU404』という作品全体に関わったテーマも投げかけられています。

この記事では青池透子の人生に軸を据えた内容でお届けしましたが、見る人によってどこに着目するかにかなり差があるのではないでしょうか。1つの感想としてお楽しみ頂けましたら幸いです。

そういった複雑な事情が絡み合いながらも、話が混迷することもなくしっかりと「一話完結」の形を取った傑作回。「ミリオンダラー・ガール」はそんな珠玉のエンターテインメント作品でした。

5話以降も込み入った社会テーマが取り上げられていくようです。今後ともそれらを読み解いて行ければと思います。また次回の記事でお会い致しましょう。それでは。

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