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『未来のミライ』を観て感じた酷評の理由と細田守作品に求めるもの

投稿日:2018年8月16日 更新日:

監督・原作・脚本 細田守の苦悩が見える『バケモノの子』

前項の通り、僕は『バケモノの子』から、特に主張やメッセージ性が激しくなったと感じています。そしてその煽りを作品全体が受けているように思えてなりませんでした。

『バケモノの子』は、十分面白い作品だったとは思うのです。
が、正直言って現実パートを少なくして、前半のテイストをより尊重する形で映画を創り上げた方がより傑作になった可能性が高いと思っています。

ですが、それをするとあの作品で言いたかったことの半分が消滅してしまうことになる。作品感を完全に変異させてしまう改編案を提示する必要があり、それはオタクが語る「もっとこうした方が良かったのでは?」で済む話ではありません。

『バケモノの子』をあのメッセージ性で実現するには、あのストーリーがベストだったのです。何度考えてもそう思います。ですが、個人的にあの、ジブリだと思ってたら途中から少年ジャンプになる路線変更のような展開は到底良いと思ってません。

『バケモノの子』のメッセージ性をそのままに、自分の思うベストな創りに変えてみせろと言われたら、僕には何も思いつきません。それくらい、駄目なところを含めて完成されてしまっている作品と考えています。

芸術性に意識を向けすぎた結果、複数のメッセージ性が喧嘩をして収まりが取れなくなってしまったのが『バケモノの子』という印象です。そしてこれはエンタメ映画を無難に創ってくれていれば起きなかった問題であったと僕は思っています。

監督・原作・脚本家として、細田監督の「自分が期待されていることを内包した作品を創り上げなくてはならない」という苦悩が見える作品でした。

余談ですが、僕は細田守作品で一番好きなのは『おおかみこどもの雨と雪』なのです。その理由は「テーマが最後まで一貫しているから」という部分にあります。

あの作品は、創りが本当にスマートです。
花ちゃんが子供2人を実直に育て上げ、子供2人は自分の生き方を懸命に考えるというストーリー上の目的意識が噛み合っていて混乱していない。その目的を最優先したために、キャラクターの動きに違和感を覚える人が多い作品でもありました。

ですが、多少強引なところがあっても、1つの着地点に向かって皆が努力して行く様は分かりやすく、面白く、見事だったと思います。

正直、細田守作品ではああいう強引ながらも整った作品が見たい…という気持ちが強いのです。『バケモノの子』はそういう意味で僕の中で非常に惜しい作品という感想になりました。

それでも『バケモノの子』は、エンタメ性を重視した創りになっていて、これら芸術性との不和を感じる人が多い作品ではなかったと思います。(僕のような評論家気取りを除けば)エンタメ映画として十分成立した作品であったと感じます。だからこそ、その理由を自分なりに解明するのに頭を悩ませた作品でもあるのですが…。

この内容を踏まえ、次項はいよいよ『未来のミライ』についてのお話です。

『未来のミライ』が酷評されている理由

ここまで細田守作品に対する独自見解を語って参りました。
今年公開された『未来のミライ』は正に、上述した悪いところだけが爆発して鑑賞者に届いてしまった作品です。

悪いところがある以上、それだけが強く出る作品が創られてしまう可能性も常にある。それを裏付ける悲しい実例になってしまったと思います。

『未来のミライ』は、満を持して芸術性がエンタメ性を上回ることに挑戦した作品と感じます。

その狙いあってか率直に言って、今作を取り巻く空気感は素晴らしかった。自分の経験談を元にしたという子育て映像は真に迫るものがありました。

アニメでありながら現実に限りなく近い映像としては、過去最高のクオリティ。それぞれのキャラクターの感情も伝わってくる細かい気回しや台詞展開も含め、ホームビデオの発展として十全たる価値があったと思います。正に心温まる映像作品でした。

故に、今まで以上に台詞や展開の粗が目立ちまくってしまったのです。

子育て部分だけが異常なリアリティを表出しており、アニメ的なファンタジー展開の部分があまりにも浮いている。さっきまでのリアリティはどうしたとばかりに、キャラの動きがご都合主義で気持ち悪い流れに移って行ってしまうのです。

ファンタジー要素が出てくる時だけ急に行動的で物分かりが良くなるくんちゃんとか。何しに来たのかよく分からない未来ちゃんとか、違和感を覚える個所は挙げ出せば枚挙に暇がないレベルでしょう…。

ここまでリアリティを重視していると、いつもなら気にならない雑さも捨て置くことができない。芸術性を高めるならそういった弱点とも向き合って、作品として仕上げてほしかった。

完全リアリティの追求をした部分と、細田監督が持っている「いつもの味」との落差がありすぎるのです結局、ファンタジー部分と現実部分の親和性が異常に取れないまま終わってしまいます。

「雑」が許されてるのはエンタメ性を重視した「面白い映画」だったからです。芸術性を重視する「良い映画」を創りたいなら、クオリティを一貫してもらわないと鑑賞者としては困ってしまいます。

結果的に何がしたかったのかもよく分からないままだった感は否めません。

いえ、何が言いたかったかは分かるんです。好意的に羅列することも可能です。ですが、それを持ってしてもこの作品を1本の映画に仕上げようとした意図がまるで分かりません。

また、作品の中に謎が多すぎるのも問題かと思います。

芸術性の高い映画は謎めいた部分を謎なまま終わらせることで、作品としての拡がりや奥ゆかしさを高めることも多いです。

それを狙ったのだと思いますが、あまりにも謎すぎる。
というかファンタジー部分については分かったことが1つもないのでは…。これでは考察する材料が少なすぎて、考えて楽しむにも相当に難易度が高い創りです。

以上のことから、細田守というクリエイターを知っていて好意的な立場であっても、面白いと呼ぶにはかなり厳しい作品です。

細田監督の持つエンタメを創るという強みが消え失せ、あまり得意ではない芸術性の方だけが極めて強く出てしまった。しかも悪いところはいつも通り悪いままなので、本当に見ていて辛いとさえ思ってしまう作品。

それが『未来のミライ』です。

僕は様々な作品創りや考察の経験があり、どちらかと言えば作品を読み解く力が備わっている方であると思います。そのおかげで、『未来のミライ』の酷評は、ここまで書いてきた積み重ねがあっての出来事であると認識することができています。

しかし今まで細田守作品を普通に楽しんできた人達にとっては、どうでしょう?

今回の『未来のミライ』は「いきなり詰まらなくなった」というように映ってしまうのではないでしょうか?

いつものエンタメ性の高い映画を期待して観に来たら、なんか全然意味の分からないホームドラマを見せられて終わってしまった。そう感じる人ばかりになるのも無理はありません。

中には、そういう細田守作品の空気感を今までもずっと楽しんできたというファンもいると思います。そういう方にとっては好評でしょうし、悪いところばかりの作品であるとは思いません。実際に、業界内では賞を取ることができている作品でもあります。

しかしながら、エンターテインメント作品としてアニメ映画をヒットさせてきたこのシリーズにおいて、エンタメを求めて劇場に足を運ぶ方の評価を切り捨てることはナンセンスでしょう。

結果として、多くの人にとって「求めていたものと違った」という現実が存在することとは、向き合わなくてはならない作品のだと思います。

まとめ -エンタメに一貫した細田守作品を-

以上が僕が長年細田守作品に抱いていた意見、感情の全てです。作品の内容には大きく触れない形で、作品観に触れさせて頂きました。

そして最後に、これが長々と書いてきた結論です。

細田監督には、やはりエンタメに振り切った映画にもう一度チャレンジしてほしい。

これに尽きると思います。
『サマーウォーズ』や『おおかみこども』のような一貫した作品をもう一度観たいという気持ちが強いです。

『未来のミライ』という映画は決して無駄で駄目な作品とは思いません。個人的には「あぁやっぱり細田監督こういうのは向いてないんだ」と分かっただけでも次への期待が持てる次第です。酷い言い方だとは思いますが、現時点では実際そうと言う他ありません…。

勝手な話ですが今の細田監督には、物凄い葛藤があるのではないかと推察しています。ポスト宮崎と言われていたことに対して、「細田作品は薄っぺらい」という玄人の意見もよく見られるものでした。

そういったものへの回答の1つが『バケモノの子』だったと思いますが、残念ながらその否定意見を突っぱねる作品としては上手く機能していなかったと思います。そのことからもう一枚上を行きたい気持ちもあったのではないかと思います。

そして、比べるべきではないかもしれませんが、自信を越えて莫大な興行収入を飛ばした『君の名は。』という作品の出現。これによって、少なからずより突出したオリジナリティの追求を求められる立場にも置かれたと思います。

全ての出来事が加味されて、今出された細田監督の回答が『未来のミライ』だったのだとしたら、これは苦悩の証と受け取ります。

今回、作品自体は僕も厳しいと思っています。
ですが、この結果を受けての次手があるのだとしたら、初心に返って最高のエンタメ作品を届けてほしいと考えています。

僕は『デジモン』世代ですので、細田守という監督には並々ならぬ思い入れがあります。細田監督のデジモン映画は、全部好きでした。

何と言うか「一緒に成長してきた人」というようなちょっとした親近感のようなものも覚えてしまうのです。おこがましい話だと自分でも思いますが、ちょっとした親近感を覚えるアニメ監督の1人には違いありません。

そんな監督の今後により大きな期待をさせて頂きます。

『未来のミライ』は微妙でした。面白くなかったです。
でも今までにない良いところもたくさんありました。

次は、これらを活かした最高のエンタメ作品が観たいです。何年後か分かりませんが、待ってます!

よろしくお願いしまああああああああああああああああああああああああああああす!!

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