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『進撃の軌跡』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。14,000字ロングレビュー

更新日:

自由の翼

鳥は飛ぶ為に其の殻を破ってきた 無様に地を這う為じゃないだろ?
お前の翼は何の為にある 籠の中の空は狭過ぎるだろ?

1期2クール目のOP曲。
今更言うまでもないことだがFULLの完成度が極めて高いので、TVサイズver.で情報が止まってしまっている人はちゃんと聴いておこう。

「紅蓮の弓矢」と同様にミックスに大きな変更がかけられており、こちらも全体的な音のバランスを重視した形になっています。
総合的に言えば「紅蓮の弓矢」よりも壮大な創りの音楽なため、ミックスの違いを感じやすいかもしれません。

「最期の戦果」という独立した楽曲と「神の御業」という異彩で一旦間を置いてから、再び調査兵団の物語に心を引き戻す。
このアルバムの中でも「二つ目の始まり」として非常に効果的に機能しているかと思います。

数々の苦難を経験しても、まだ前向きに自由を求めることが出来る。
苦しい現実と厳しい世界のことは理解しているつもりだけども、本当の過酷さはまだ知らない若い心。その力強さだけがまだまだ前のめりになっている音楽だなと思います。
先の展開を知り、その音楽を聴いている今となってはそう思える一曲ですね。

この曲は終わりです。短くないですかって?
「紅蓮の弓矢」と「自由の翼」は今更そんなに書くことないでしょ!?

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双翼のヒカリ

最期の《瞬間》あなたの《瞳》に 映る私 勇敢な"兵士"でしたか?
忘れないで あなたの背に 羽撃くのは対なる"双翼のヒカリ"

ここまでの歌はタイトルから何となく誰をイメージした歌かを想像できる要素がありましたが、この曲については誰をイメージしたものか、聴き始めるまで多くの人が曖昧だったかと思います。
そして歌詞カードを見て「うっ…」となった人も多いことでしょう。

調査兵団特別作戦班。通称リヴァイ班。
『進撃』で魅力的に描かれたキャラクターの中で、恐らく最も悲惨な最期を遂げたであろうキャラクター達です。
一瞬のうちに女型の巨人に全員が殺されたシーンは、作品の無常さと無情さを容赦なく突きつけてくる最も印象深いものの一つであったと思います。

この曲はその悲惨な最期を遂げた一人であり唯一の女性であったペトラから、リヴァイに向けられた想いの歌となっています。
Revoもインタビューにて「誰の曲よりも真先にこのエピソードのことを考えた」と答えており、彼の中でも非常に強く心に残っているストーリー、そしてキャラクターであることが伺えます。

劇中ではペトラが直接リヴァイへの想いを吐露するシーンはありませんが、それに向かう空気作りは確かに行われており、それこそ二次創作ではよくフィーチャーされている印象。
この曲についてもRevoが「自分の解釈で曲にさせてもらった」と答えているように、このアルバムにおいて作中で明言されていないキャラクター性を最も強く描いた一曲と言えます。

ペトラの気持ちはこうであったかもしれない。そして、彼女はリヴァイのことをこういう人間だと思っていたのかもしれない。
彼女の想いを切り口にして、Revoの中のリヴァイというキャラクターの解釈も同時に表現している楽曲です。
自分を想い慕ってくれる兵士の命と意志が集まった"白い翼"。
犠牲になってしまった兵士達の命と遺志が集まった"黒い翼"。
この二枚の"双翼のヒカリ"がリヴァイそのものであると。

解釈の正解は無数にあって、そのどれもが間違いではない。
多様性を尊重するSound Horizonを続けてきたRevoならではの創りになっていると思います。

「自由の翼」とその「代償」に挟まれたこの曲は、このCDで最もしんみりとした音楽です。
大きな曲やリズムの変化もなく、ただただストレートに切なく、加えてどこか淡々とした諦観を感じさせるようなメロディで、最期を迎える彼女の胸中を語ります。

曲の最後に用いられているSEは、アニメオリジナル展開を踏襲したものかと思われます。
エグいことをされるものだ。

自由の代償

どんな犠牲を払っても 掴むべき《未来》がある
血塗られた冷徹な 其の意志の名は《自由》

劇場版後編のテーマソングとして創られた楽曲。
"自由の翼"は大きな"代償"の上に齎されるものであるとでも言いたげな曲順が胸を抉ってくる。

この曲は映像が先に出来ていたので、映像の展開に音を合わせるという試みによって創られた楽曲です。
そのため、曲単体で聴くと些か強引であったり違和感を覚える部分があるだろうというところまでRevo本人の口から語られています。

初回限定版のCDにはこの曲の醍醐味を感じられるように、アニメ映像に合わせられたブルーレイが同梱されています。買うなら是非ブルーレイ同梱版を!

僕は劇場版を観に行っていないので、正直劇場サイズver.はあまり好きになれませんでした。
FULLサイズでは映像ありきの特徴的な展開を残しつつ、ブツ切りに近い切り替わりを感じにくいような肉付けがされている印象です。

最も特殊な展開の曲であり、初聴で完全についていくのは難しい楽曲となっています。
映像を見ずに聴く場合は、この音が何故ここで鳴るのかを考えながら映像の展開を妄想するというのも、一つの楽しみ方になるかもしれませんね。

「自由の翼」が自由という理想を掲げる凱歌であるなら、
「自由の代償」は自由という概念その物を求める弔歌かと思います。

同様のメロディを利用した二曲でありますが、本質的には真逆な曲。
「代償」はとにかく"自由"という存在を強調し、冷静に言い聞かせるような、悲しみと懺悔を含んだ決意のニュアンスを感じます。

歌詞がイラストで描いてあるのに、そこの歌がドイツ語で全然分からないという嫌がらせめいた所業が散見されますが、何だかんだそんなところにも安心感を覚えてしまうのがファン精神というやつかもしれない。

彼女は冷たい棺の中で

嗚呼... 悪は滅びようと... 自業自得だと...
言い張る心算はないが 私はやるしかなかったんだ……

タイトルから一発で誰の歌か分かるシリーズ。
女型の巨人として戦士の責務を果たそうとしたアニ・レオンハートが、自らを封印した結晶体の中で何を想うのかを書き出した一曲です。

アニの存在はそれ以降原作でも触れられることがほぼなく、壁外人類の存在が明らかになった現在でも、彼女の素性や本質については未だに謎な部分が多いです。
巨人化の力を集める都合上、封印された彼女の存在が重要な意味を持つまでには、さほど時間はかからないのかもしれません。

この曲で語られているアニは、最新巻までで明らかになった情報を踏まえ、封印ギリギリまでで垣間見えたキャラクター性と父親の存在を拡げた曲となっています。

最期を迎え個人の物語が終焉しているペトラやエレン母と違い、彼女はまだ生きていて、これから本編で確実な掘り下げが行われる重要キャラクターです。
その展開を阻害しないレベルの範囲でしか解釈を拡げられない制約はあったのだと思います。

なのでアニ個人の曲というよりは、エレン達とは別の正義を持った戦士達3人の苦悩を総合して表現している曲のように感じます。
インタビューでもRevoは「単純な勧善懲悪ではなく、多面性のある作品であることも伝えたかった」と答えています。

アニは、戦士達3人の中で、最も感情的であり感傷的な一面を持つキャラクターです。
感情を持ちながらも自らの目的意識を捨てず、最後まで父親の言葉を胸に抵抗し、今もそれを続けている。
同胞であるライナーが痛烈な現実を前にして心がおかしくなってしまったことを考えても、アニというキャラクターの精神力は計り知れないと言えるでしょう。

楽曲においてもそのメンタリティは反映されており、タイトルからは想像もできないほど力強いメロディ、そして歌声で彼女の胸中を彩ります。

一つの役目を終え、眠りにつきながら、改めて自分の存在意義、行動の内容について葛藤し、時には言い訳し、時には決意する。
不安定な彼女が辿り着く先は本編で語られることですが、アニという作品の根幹に関わる重要人物の存在を、受け手の心にしっかり刻み込む力があるストレートな音楽と思います。

歌詞の中で「あんた」という存在が複数回登場します。
最初がエレンであることは間違いないでしょうが、曲の最後で語られる「あんた」はまた、違う人物を指しているのではないかなと思っています。
音楽の切れ方、そして歌詞カードの書き方がそれを匂わせているような。

心臓を捧げよ!

黄昏を"弓矢"は翔る "翼"を背負い
その"軌跡"が自由への 道となる

このアルバムの便宜上ラストを飾る一曲にして、アニメ二期のOP曲。
FULLver.お披露目となりました!

この曲は凄い!とにかく凄い!!
ここまで8000字以上かけてRevoを語ってきた俺が言うんだから間違いない!!

曲順を見た時は、正直なところ「え、あのテイストのOP曲を最後に持ってきちゃうんだ」と思ったりもしました。

何故ならこの曲のTVサイズで受けたイメージはさながら軍歌。
一期を増して苛烈を極める調査兵団の新たな戦いを切り出す、壮大な始まりの歌という印象でした。
曲自体も一期よりも更に作品観に寄り添った歌で、より癖の強い創り。
終わりに持ってくるのは些かズレているような…。そう感じざるを得ませんでした。

しかしこのアルバムのラストで聴くとその印象は一変。
ここまでの楽曲で積み重ねてきた様々な要素が軸となり、決意や結束というポジティブな感情から、悲しみ、怒り、憎悪と言ったネガティブな感情まで、様々なものが伝わってきます。
『進撃』一期の世界観の全てを内包し、新たな出立を表現する、深いテーマ性をメロディから感じるようになっていました。

前半はTVサイズで聴いているのと同じ曲なのに、こうまで感じるのが変わってくるとはと思い知らされる。確かにこのアルバムの最後を飾るに相応しい楽曲であると強く思いました。

そしてFULLサイズの展開はとにかく凄まじい。
Revoが初めてTVアニメのために書き下ろした「紅蓮の弓矢」は、FULLサイズになるとどこか不自由さを感じさせる実験的楽曲となっており、一部の『進撃』ファンからは不評を買ったのを覚えています。
対して「自由の翼」は「紅蓮」よりも文字通り自由に創られており、こちらは逆にFULLサイズの評判が良い。単一曲の完成度ではRevo曲の中でも屈指の名曲であると僕は思っています。
しかしその分、アニメOPとしては、1分半で盛り上がりをまとめるのが難しい一曲となってしまっていたのもまた事実だったかなと思います。

そして「心臓を捧げよ!」はこの二曲の弱点を克服。
「紅蓮の弓矢」のようにOP曲としても無理のない展開を据えながら、「自由の翼」のように多様なメロディを使ってのRevoらしい展開力と表現力が炸裂しています。

特にCメロ→各楽器ソロ→Dメロの展開は必聴。
過去曲を上回る圧倒的な音圧によって繰り広げられる、息も吐かせない音楽的展開はRevoの新たなる飛躍を感じさせる超表現です。この曲が5分半という短い時間に纏められいるのもまた本当に素晴らしい。

特筆すべきは、前半の軍歌的な表現から、全く違和感なく壮絶なバンドサウンドに移行し、最終的には融合するところでしょう。
Revoはオーケストラサウンドとバンドサウンドを違和感なく両立させ親和させるスキルが本当に高い。この点に関してはRevo以上に優れた作曲家を知りません。

TVで聴くとボーカルやメインメロがどうしても中心に聞こえてしまうと思いますが、CD音質をヘッドホンなどで聴くとコーラスが強く強調され、実に心地良いバランスで聞くことができます。
この曲はアニメOPとしてTVで聴くのではなく「音楽を聴く環境」でじっくり聴いてみてほしいと思います。

是非CDや音源を手に取ってみてほしいです。本当に最高の一曲です。

全曲通して伝えておきたいこと

漏らすことなく一曲ずつ書いてきました。
ここまでで「進撃の軌跡」が『進撃』の世界を実直に書き抜いたCDだということは伝わっている(伝わっていてほしい)ことかと思います。

あとはもう少しだけ、全体で思ったことを書いておきます。

今回のアルバムで特に特徴的なのは、OP曲である「紅蓮の弓矢」「自由の翼」の2曲に登場するメロディを、どこかに取り入れている楽曲が非常に多いということです。
同じメロディを違う雰囲気や楽器で表現する映像作品のサウンドトラックなどとは違い、曲の一部を含めた「全く違う曲」を創っているのです。

ガッツリ分かりやすく引用している曲もあれば、表現の一部として1フレーズだけ同メロディが使用されている曲もあります。

Revo自身は、Sound Horizonにおいても、アルバムでメインテーマに据えられている楽曲のメインメロディを随所に活用して、作品全体の雰囲気を盛り上げることが多いアーティストです。
つまりファン的に言えばこれは「いつものこと」ではあるのです。

しかし、Revoのアルバムを初めて聴く『進撃』のファンからすれば、最も聴き馴染みのある曲のメロディが全く違う形で耳に入ってくるというのは音楽を聴く上であまりない体験になるのでは、と思いました。

同じメロディを違う曲に使うというのはかなり難しい方法論なのですが、Revoは演出の一環として、本当にそれを上手く行うことができる作曲家です。
決してメロディを思いつかないから流用しているのではないということは、楽曲のクオリティや創りを体感してもらえれば間違いなく伝わると思います。

こういうポイントによって、一つの関連した大きな作品を楽しんでいることを、聴き手が意識せずとも印象付けて行く。
その結果、映像作品と同じような没入感を、音楽だけから得ることが出来るのです。
物語音楽というジャンルを盛り上げてきたRevoは、そういった他の作曲家とは少し毛色の違うノウハウを沢山持っています。その一例としてこれは書いておきたいと思いました。

あとは今回のアルバムは全ての曲が6分以内に収まっており、およそ「一般的な長さ」に収まっています。これも慣れていない聴き手のことを意識した創りでしょう。
何のこっちゃの方もいるかもしれませんが、普段は一曲8分以上、場合によっては10分や15分の曲を平気で打ち出してくる作曲家なのでお察しください。

漠然と長いというイメージが持たれやすいRevo曲ですが、『進撃の軌跡』を聴いた方には、これほどの力量を持った作曲家がより長い尺をかけて描き出す物語とはどういうものなのかというポジティブな捉え方をしてもらえたらなぁと思ったり。

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