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『進撃の軌跡』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。14,000字ロングレビュー

2017年5月21日

引用元:『進撃の軌跡』ジャケット

 

言わずと知れた「紅蓮の弓矢」を生み出し、アニメ『進撃の巨人』の盛り上がりを確かに支えたLinked Horizon。
その主宰であり作曲家でありボーカルであり便宜上その他諸々であるRevo。

彼が音楽で紡ぎ出す新たな『進撃の巨人』の世界!
コンセプトアルバム『進撃の軌跡』発売中!!

映画版に新たにテーマ曲として書き下ろされたものなど、未だにFULLver.がないものも数曲存在し、これは二期に合わせてコンセプトアルバムが発売されるのでは?と思ってはいましたが、満を持してその通りになりました。

Linked Horizonのアルバムと言えば『ブレイブリーデフォルト』とのタイアップである『ルクセンダルク大紀行』に続き2枚目。こちらも確かな表現力と歌詞で作品の良さを表現し、何年経っても「このCDを聴けばゲームの内容が思い出せる」というような創りになっている素晴らしいCDでした。

『進撃の巨人』でもそれと同じ形式でリンホラの作品が創られるのは想像に難くなく、『自由への進撃』以降、実に待ち望んだ待望のアルバムでもあります。期待通り予想通りのCDではありますが、そうであっても内容でその期待を超えてくるのがRevoという男。

今回のアルバムは一枚かけて、アニメ『進撃の巨人』一期を総ざらいするような内容です。一期さえ見ていれば十分楽しみことが出来ますヨ。

アニメで使用されたテーマ曲を中心に、Revo自身が「ここには、このキャラクターには曲があっても良いのではないか」と感じた内容を渾身の曲として書き出しています。

「アニメOPは良かったけど、別にアルバムを買うほどではないよ」、そう思っている『進撃の巨人』という作品のファンにこそ手に取ってほしい一枚です。

これは『進撃の巨人』の大ファンでオタクであるRevoによる、『進撃の巨人』ファンのための最高のCDなんですから!

手を出そうか迷っている画面の前の皆様のために、今から一曲ずつ丁寧に魅力を解説して行きます。CDの内容はもちろん、コミックス含む作品の内容にも触れていきますのでご注意を。

この記事を読み終わった皆様が、『進撃の軌跡』を買いに走っていることを祈りながら書いて行きます。

楽曲紹介&レビュー

さて、一曲ずつじっくり感想を書かせて頂きますよ。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。

二ヶ月後の君へ

奪えない自由は 何時だって 其処にある
全てを背負い さぁ 征こうぜ!

一曲目にしてRevoという男を象徴するような曲。

本編一話のタイトルをオマージュしたタイトルですね。「にしてはスケールが小さすぎないか?」と最初は思った。

作品のアルバムとしては「紅蓮の弓矢」を一曲目に据えてくる未来が見えていたため、一曲目はプロローグ的な意味を持つ短めのインスト曲か何かかな?と思ってCDを再生しました。

いざ始まってみると流れてくるのは「紅蓮の弓矢」などOP曲を彷彿とさせるアップテンポのロックミュージック。この曲は一体?という掴みから聴き始めた人が殆どかと思います。

前アルバム『ルクセンダルク大紀行』では、「Theme of the Linked Horizon」という自分目線の曲を一曲目に持ってきたRevo。

そう、Linked HorizonはそもそもRevoというキャラクターが作品にダイブして見聞きしたものを歌にするというプロジェクトです。本人がそう言ってんだから仕方ねぇだろ。

『進撃の軌跡』もRevoの視点で『進撃の巨人』を捉えた曲を一曲目に据えてきました。その内容とは、本誌を読破しているRevoが、これから始まるアニメ二期のエレンにメッセージを送るというものです。

本誌では明らかになっている真実は、アニメ二期のエレンはなだ何も知らない。これからの行く末の全てを知っている自分は果たして彼にどんな言葉をかければ良いのか…。

そんなRevoの心の葛藤を描いた歌です。
…何言ってんだ?って感じだと思いますが。

実に臭い話だが、こういうことを平然とやってのけるのがRevoという男。『進撃の巨人』のファンでRevoのことをよく知らない方々にまずその印象を持ってもらうにはベスト(だと思う)

一部では「完全に同人誌の前書き」と言われておる模様。でもマジでそうだから手に負えない。

曲は物凄くストレートに気持ちが乗っておりカッコイイ!二月時点で本誌で判明している情報(コミックス刊行済み)まで細かく織り込んだ歌詞は必見(ただし日本語で書かれているとは限らない)

『進撃の巨人』を深く楽しんでいる人ほど、Revoがこの作品をどれだけ愛しているかがよく伝わってくる、そんな一曲からこのアルバムは始まります!

紅蓮の弓矢

放たれた弓矢よ 壁を超え海まで飛んで行け!

Linked Horizonの代名詞となり、紅白出場も果たした説明不要の一曲。紅白ver.同様にアルミンのボイスが追加され「始まり」を強調。

今更敢えて語る必要のない曲ではありますが、linked Horizonにとって最初の曲となった「紅蓮の弓矢」は、あくまでも作品全体のイメージを伝えるための曲だなと思います。

「自由の翼」以降は作品の「内容」に即していくようになり、このアルバムは特にこちらの側面が色濃い曲が多いです。

そういう意味でやはり最高のオープニングソングですし、幅広く世間に認められたのもそのおかげなんだろうなぁと改めて。

アルバム化に当たり、音声のミックス調整が行われており、シングル版と比較して聴くと結構違って聞こえます。

細かい説明は難しいですが、全体的にバックのブラスバンドやコーラス、ギターソロなどの圧が強い音の音量が小さくなり、メインの管楽器、ドラムやベースが前に出るように。後ろで鳴っているその他の楽器の細かい音も聞き取りやすくなりました。

シングル版がアニメOPとして活用することが意識された迫力重視のミックスなら、アルバム版は一枚のCDの始まりとして曲の纏まりを優先したというところでしょうか。

ボーッと聴いていると正直あまり分からないと思いますが、イントロの主旋律なんかはかなり前のめりに聞こえるので、その時点で違和感を覚える人はいると思います。

『自由への進撃』を聴いた方も是非聴き比べて楽しんでください!

14文字の伝言

特別じゃなくても 人より優れてなくても
誰かに認められなくても
あなたは生きてるだけで 既に偉大なのよ
お願い どうか忘れないで――

『進撃』のアニメでRevoを知り、壮大でカッコいいテーマ曲に魅了されてきた方はここで面喰うかもしれません。

物語音楽を積み上げてきたRevoによる、キャラクターをフィーチャーした真骨頂とも言うべき一曲。そしてこのCDの半分はそういった楽曲です。

聴き始めれば誰の曲かはすぐに分かると思います。往年のRevoファン、特にSound Horizonのファンはタイトルで分かっていることかと思いますが。インタビューで確信犯だとRevoも答えています。

「○○文字の伝言」というのはRevo作品において「母親の愛情」を表すキャッチフレーズ。それはこのCDにおいても例外ではない。

先の展開を知っているが故に、序盤の幸せそうなメロディ、歌詞、歌唱の全てが胸に来る。

既に公開されたインタビューで、Revoは「どんな作品であっても、母親は子供を愛していてほしいという価値観は普遍的なものであると思う」と語っています。

エレンの母親、カルラ・イェーガーは何を思って生き、最期の瞬間を迎えたのか。「行かないで…」と呟いた彼女は、目の前の死を恐れたのか。それとも目の前で消えて行った日常を取り戻したかったのか。Revoが世界を拡げる解釈で曲として描いています。

一つ補足しておくとLinked Horizonは全ての楽曲をRevoが歌うわけではありません。

CD毎に女性ゲストボーカル(ファンからは歌姫と呼ばれる)を選出し、Revo以外の歌手によって表現される歌の方が普段は多いです。このCDも半分は女性ボーカルによる楽曲です。

アルバムにおける『進撃』の物語はこの曲がスタートとなります。
このアルバム一枚が一つの物語を描いているのだと決定付けるには十分すぎる力がある曲で、聴き終わる頃には『進撃』の世界観に引きずり込まれていることでしょう。

平穏な日常を描く前半の落ち着きから、親としての幸せを感じさせる力強さへ。そしてそれが徐々に絶望に塗り替えられて行くメロディの変化が壮絶な一曲。

この曲で心を鷲掴みにされ、涙を流した方も多いでしょう。それによって『進撃の軌跡』の世界に確かに没入させる力がこの歌にはあります。

最後に"14文字の伝言"の後に絶妙なタイミングでカットインされるSEが心に直接響き渡ります。

紅蓮の座標

吠えることしか出来なかった あの日の少年は
≪調査兵団の装備≫を取り 多くの仲間を得た

「紅蓮の弓矢」が作品の始まりを象徴する曲なら「紅蓮の座標」はエレンはじめ『進撃の巨人』に登場するキャラクター達の新しい始まりを象徴した一曲でしょう。

前身である「弓矢」のメロディを踏襲しながら、ファンファーレや行進曲のテイストを強調した明るい未来を見据えた楽曲。

母親の死を乗り超え、調査兵団として新たなスタートを切ったエレン・イェーガー。「14文字の伝言」からこの曲への流れは実に凄惨で美しい。

映画版のテーマソングであり「紅蓮の弓矢」へのアンサーソングとして作成された曲。年単位の時を待ち、ついに公開されたFULLサイズです。

今でこそタイトルの「座標」が何を意味した単語なのかは分かるのですが、この曲が創られた時点はまだ明らかになったかどうかの時期だったはず。なんで「座標」なんて単語をタイトルにできたんだ?などという憶測も飛び交った記憶が。

変調子で曲の展開が目まぐるしく変化するプログレッシブロックのきらいがあるRevo曲。『進撃』ファンの方もそれは「紅蓮の弓矢」でよくご存じかと思いますが、その中で「紅蓮の座標」は展開が最もストレートで聴きやすい一曲です。

『進撃の軌跡』で最もアニソンらしいアニソンと言えるのがこの曲かもしれません。映画でこの曲を聴いてムービーver.を持っている方は、恐らく大きくイメージは外れていないFULLver.を聴くことができると思います。どこか安心感もあり、そこはかとない物足りなさもあり…。

裏歌で「この美しき残酷な世界では」という一期のエンディングテーマに使用されたフレーズを使用するのもRevoらしくにくい。あと歌詞カードがすごく座標座標している。初見絶対読み方が分からない。

最期の戦果

私は最期まで屈しない

ロングインタビューの中でRevoが「何故かこの物語の歌を書きたくなった。『進撃』の世界を象徴する物語だと思っている」と語っています。

本当それ!お前よく分かってる!!(謎上から目線)正直、この「イルゼの手帳」を使って一曲創るというのがもうRevoが『進撃』大好きであることの証明と言っていいほどだと個人的には思ってしまうのである。

このお話はアニメ本編では採用されず、後日OVAムービーの一端として公開されることになりました。物語の根幹に関わっている最大のサイドストーリーという認識。

非常に特徴的な緩急と、背後で常に流れている何かを書き記すSEによって独特の緊迫感を生んでいる一曲。

序盤を彩る死と隣り合わせの緊張感と疾走感。そして巨人と対話するという奇跡の当事者となった驚嘆や歓喜、その後冷静さを取り戻し表出した怒り。イルゼの不安定な心の機微を、多様な音楽表現によって描き出しています。

Revoファンからすると奇妙な安心感すら覚える音楽的展開。曲の創りが非常にRevoのソロプロジェクトSound Horizonに近く、このCDで最もRevoの持ち味が反映されている曲と言って良いかもしれません。

他の曲がキャラクターをフィーチャーしたイメージ音楽だとすれば、この「最後の戦果」は本編で使われたイルゼの手帳を一場面そのまま描き出しているような曲。

語りや台詞こそありませんが、その本質が物語音楽であるからかと思います。

非常に取っ付きにくくハードルが高いと思われているSound Horizonですが、この曲の展開に感嘆を覚えた方はこちらの方も楽しめる素養があるのではないと思います!

そして特筆すべきは曲の最後に挿入されている台詞。絶望的なラストにしめやかな救いを持たせます。本編の同台詞と比べるとどことなく、この曲がイルゼ・ラングナーの戦果であることを聴き手に伝えるようとするイメージを受けました。

これも実はRevoの指示によるものとインタビューで語られており、そのニュアンスを的確に表現した声優さん(敢えて誰とは言わない)の力も実に素晴らしく作用していましたね。

神の御業

汝 疑う事なかれ 汝 神の御業を
汝 此れ侵すべからず 汝 聖なる壁を

作中に登場する宗教ウォール教の教えをそのまま讃美歌風に仕上げた、アルバムの中心にして最も異彩を放つ一曲。
インタビューにおいて「Revoが『進撃』でアルバムを創るならこういうところも切り出すということを最も分かりやすく行った」と語られています。

陶酔的で不気味な音の拡がりや空間を感じさせるコーラス曲。6曲目というCDの中心にして物語を一旦置く役割を果たしているかと思います。

20人以上のコーラスを何重にも重ねているから凄いことになっているらしい。ほぼアカペラなため、ライブで観客が歌うことになる可能性が高い。

ウォール教は作中において、宗教団体の体を取り、偽王政と手を取り合って民衆の心を惑わした存在。その全てが明らかになったわけではないですが、現時点では邪教とも呼べる存在。大陸間戦争の歴史が明らかになった今、彼らの掲げる「神」とは何なのか。謎は深まっています。

今後良くない形で再登場する可能性は極めて高い存在かと思います。この曲にもそういったネガティブな表現を感じさせる要素が含まれている。

「神の御業」というタイトルからSound Horizonのファンはどうしても運命の女神や死神を思い浮かべてしまうでしょう。そしてこの曲の最後には、Revo作品において死神を象徴する音階が加えられています。

往年のファンにだけ分かる形でウォール教の本質を表現する細かい演出。偶然では?と思う方もいるかと思いますが、Revoという男は確信的にそういうことをやります。

ネットで見た2:19という時間はニック司祭を表しているのでは?という説も、流石に滑稽ではあるもののあながちない話ではないのです。この曲は余韻が他に比べると大分長めに設定されているのは事実かなぁと。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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