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『アンナチュラル』から見る"秀才的"脚本家 野木亜紀子の巧みさとは?

更新日:

『アンナチュラル』を見た!

今更ですが!
前クールいきなり1話を見逃したっきり積んでいたアンナチュラルをようやく見ました。

ゆっくり見るかと思い1話を再生し、1話のあまりにパーフェクトな出来にそのまま視聴し続け3日で完走しました。実に最高なドラマですので今すぐ見てほしいですね。かく言う僕も周回遅れ勢ですが。

僕は医療系とミステリー系は普段あまり好んで見ないので、法医学ミステリーというこの作品は、本来であればあまり食指が動かないタイプの作品でした。そんな僕がこの作品を見ようと思ったのにはわけがあります。

それは脚本家が野木亜紀子さんだったからです。
本当にとんでもなく上手な本を書かれる脚本家さんで、僕が現在脚本家単位でチェックしている数少ない方の1人です。

野木さんは『逃げるは恥だが役に立つ』のドラマ脚本を担当されたことで世間的には一躍知名度を上げた方かと思いますが、僕が初めて拝見したドラマは『重版出来』でした。

全話見たわけではなく、家族に「これ面白いよ」と言われて中盤辺りの話を何となくボーっと眺め始めたという導入。しかし、地味な題材を活かし切るあまりにスマートな1話の構成に舌を巻いた記憶があります。

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当時は意識して見ていたわけではなく、「異様に優れた本書きがいるようだ」という印象に留まっていたのですが、それが『逃げ恥』で繋がりました。ちなみに僕の『逃げ恥』の1話をリアタイした印象は、「地味だが1話の構成が間違いなかったので恐らく面白くなる」でした。

この時、自分が映画館で観ていて好印象だった『俺物語』『アイアムアヒーロー』などの本を書かれていたことも知りました。

『アンナチュラル』はそんな野木さんが担当された完全オリジナル作品。
野木さん自身はメディアミックス作品の担当が多く、オリジナル作品はさほど多くない脚本家さんです。別媒体の実写化という高いハードルを、確かな作品理解と取捨選択技術によって数多成功に導いてきた手腕を買われていたのだろうと推察されます。

オリジナル作品は(初ではないと思いますが)「満を持して」という言葉を使っても良いのではないでしょうか。そういう経緯から『アンナチュラル』は是非チェックしてみたいと思っておりました。周回遅れで本当すんません。

映画ドラマというのは脚本の出来だけが内容の良さを決定付けるものではなく、演出なども含めた様々な観点によって作品の面白さが生み出されるものです。実際僕には、テレビ業界の脚本家がどこまで作品の内容や方向性を決定付けているのかなどの内部事情の実感はありません。

ですが、これは間違いなく脚本家の手腕によって生み出された面白さであると言える部分について、したためてみようかと思います。
よろしければお付き合い下さいませ。

圧倒的に計算し尽くされた"構成力"

野木さんの持つ最も素晴らしい点は話の構成力だと思っています。
簡単に言うと「話をまとめるのが上手い」ということです。

テレビドラマは1時間枠が取られている都合上、他の媒体よりも1話完結を求められる傾向があります。その話だけで「どう面白く感じさせられるか」という点が重要視されている印象ですね。

なので、どこか1話だけ切り取って見ても面白いと思える作品は、経験上全話見てもだいたい面白いです。

1話ずつの構成が上手い方は、1クール分の構成もしっかり見据えて創られているという感じ。これが本当に重要なんです。

例えば、話のどこかをごまかして1話分乗り切ろうとしている作家さんのドラマは、話数を重ねるごとに致命的な齟齬や辻褄合わせが必要となって、尻すぼみになっていってしまうパターンが多いです。1話単位だと「気になる」程度が積み重なって、最終的に「つまらない」になってしまうわけです。

この「話の構成」という部分に関しては完全に本書きの腕に依存しているところがあり、どんなに優れた演出をつけても、役者が頑張って演技をしても埋めることができません。

逆に言うと、この部分が間違いないクオリティで創られていると、その他全ての要素がより良い形で輝けることになりますね。だから、映像作品の本というのは「他を阻害せず、より輝かせる」構成力がより大きな意味を持つのです。

野木さんは、この構成力が突出して優れている方だと思います。
僕の今まで見てきた中ではトップクラスの方の1人と言って間違いないです。

話の盛り上げの創り方、伏線の張り方、回収の仕方など。
全ての要素が必ず1話の中でまとめ上げられており、変なモヤッと感や「結局あれどうなった?」ということが一切起こりません。

しっかり頭の中で全て創られており、プランを着実に遂行しているような感覚。
ノリで書いているという感じが全くしない緻密さを持っています。

いやノリで書くことが悪いわけではないのです。
寧ろノリで書いて面白いという作品創りをしている(と感じられる)方は大勢いて、そういう方はそのノリでしか生み出せない作品を創っています。

感覚による作品創り、天才的と言えるでしょう。
それと頭で創るのとには、全く違った良さがあります。

失礼な物言いになってしまいますが、『アンナチュラル』は取り分け物凄いことが起きる作品ではありません。概ね想像通りの話が展開されて、想像の範囲内で終わります。衝撃のラストとか、何が起きるか分からないドキドキ感が大きい作品ではないのです。

にも関わらず、その内容が期待を遥かに超えてくる。
内容は想像通りなのに、出来上がってくるものは期待以上と言いましょうか。

どちらかと言えば天才的と言うより秀才的です。
感性よりも頭脳で創られていて、加点方式ならこれを上回る作品はあるかもしれませんが、減点方式なら100点満点と言って過言ではない作品だと言えます。

そうですね…例えばですが…料理で行きましょう(唐突な展開)

冷蔵庫に野菜と肉とカレールゥがあったとします。
それで何かを作ってもらう場合、我々は真先にカレーが出てくることを考えます。

天才的創り手はこの材料でカレーではない全く違う何かを創造し、珠玉の一品料理として仕上げてきます。

対して、秀才的創り手はちゃんとカレーを作ります。
しかしながら、そのカレーが我々の全く知り得ない美味しさを誇っており、最早ただのカレーにくくってはならない、全く新しい料理として記憶に残るのです。

野木さんの書かれた『アンナチュラル』は後者であると考えています。
天才的ではないのですが、秀才的作品が天才に差し迫り、超えて行く。

クリエイティブな目線で見ていると、野木さんの書かれる本は、そんな痛快さも感じさせてくれる一味違った珠玉のストーリーテリングなのです。
これなら分かりやすいやろ!

さて、次は野木さんの構成力の中で、特筆しておきたい部分について書かせて頂きます。

セオリー通りの展開 最高の裏切り

話の構成力とは、話の分かりやすさに繋がります。

野木さんの脚本はとにかく分かりやすい。
俗に言う読解力がない方々でも、見てて分からない、難しくてついて行けないってことがないのではないかと思います。

キャラクターも感情に実直で、よく分からない言い分とか無駄に秘匿された信念とかもない。心情をほのめかした謎の行動ってのがあまりないんですよね。

お話創りの基本に忠実で、ちょっと穿ったところはしっかり言葉にしてくれる。
正にお手本のような展開です。

ですが、それだけだと本当にそれだけの平坦なお話で終わってしまう。良いお話だとは思いますが、特に印象に残らない。良い出来ではあるが、どこかで見たような感じでありきたり…それ止まりの作品になってしまいます。

でも『アンナチュラル』はそうなってはいないのです。
そんな風に思った方はほとんどいないんじゃないでしょうか。

それを裏付けているのが、実にスマートに差し込まれる視聴者への裏切りです。
こうだと思っていたストーリーの真相は別のところにあったというやつですね。

『アンナチュラル』の中でもこれが最も見事に反映されていたのが1話だと思っています。
要素だけ挙げても

浮気疑惑→私怨からの毒殺→病気→感染源の特定→事件の解決

と「そうに違いない」と思っていたものが怒涛の勢いでひっくり返されていく内容でした。
最初「まーた不倫ドロドロものけぇ」と思った方も沢山いたのではないかと。

野木さんの脚本はこの裏切りの入れ込み方が正に絶妙。
話の転換はストーリーを動かす上で必要不可欠なものですが、ちゃんとお膳立てをしないと「実は~実は~」ラッシュになってしまい単純に面白くなくなるんです。

1話なんか実尺60分程度で4回くらい裏切りが盛り込まれていたと思いますが、その全てが全く無理なく成立するように伏線が張られていました。

しかも話にのめり込んできて「恐らくこれが正解なんだろう」と腑に落ちた段階で綺麗に切ってくるものですから、我々は当たり前のように「やられた」という感想を抱きながら強烈に話に惹き込まれてしまうのです。

1話に限らず、『アンナチュラル』は全話通してこの展開性が常にベストなタイミングで放り込まれていたように感じます。裏切り、ミスリードは特にミステリー作品において欠かせない要素ではあると思いますが、その全てが毎回しっかり完全に流れに落とし込まれているというのが末恐ろしいクオリティです。

全10話通して、悪い意味で「おいなんじゃそりゃ」と思う個所が一つとして見つからなかったんですから。

分かりやすいストーリーに、分かりにくく伏線を散りばめ、最高に優れた構成の作品を仕上げている。いやー感服です。何に置いても素晴らしいです。

おわりに

ここまで構成についてつらつらと書かせて頂きました。ですが、野木さんの書いた本を見ていて強く感じることがもう1つあります。

それは「受け手がどう感じるか」の見詰め方が大変優れているということです。

客観的に自分の作品を見て、どうなっていればベストなのか。自分が受け手として自分の作品を見たらどう思うのか、という見方が作品に色濃く反映されていると思います。

そして、その意識が実際の受け手と非常に近いところにあってくれている。大変素晴らしいことであり、こういう方が存在してくれていること自体、我々視聴者にとって幸運なことであると思います。

創り手とは必ずしも大衆にとって優れた作品を生み出してくれるとは限りません。
「玄人好み」と呼ばれる作品ばかり創る方もいますよね。

野木さんのように、面白い作品を"我々にとって最高"のエンターテイメントとして打ち出してくれる方は、想像しているよりもきっと貴重な存在です。

僕は常々、「結局オタクを喜ばせられるのは、知識と力を持ったオタク」という言い方をしていて、実際に自分の好きな作品にもそういうクリエイターの方々が携わっている作品が多いです。それはTVドラマや映画であっても同じことで、野木さんは「自分自身もファン」という目線をしっかり持たれている方だないう印象があります。

だからこそ、ファンの目線でメディアミックス作品の実写化を幾つも成功させることができたのだと思いますし、逆にそれを多岐に渡って担当してきたことによって、より視聴者意識が根付いたオリジナル作品を創ることに成功にしたのではないかと思います。

メディアミックスでの成功とオリジナルでの成功はまた違った意味がありますので本当に素晴らしいことだと思います。

これからも野木さんの作品、是非チェックして行きたいです。
僕も一端の物書きとして、大変参考にさせて頂きたく思います。

おこがましくも語って参りましたが要するにただのファンです!!
大口叩きですみません!

『アンナチュラル』は本当に最高の作品でした。ストーリー構成という観点では2010年代を代表する1作品に数えられても全くおかしくないクオリティだったと思っています。

今回は僕がこの作品を見るキッカケになった野木亜紀子さんにフォーカスを当てましたが、是非作品そのものの感想記事も近いうちに書かせて頂きたいですね。

それでは今回はこの辺りで失礼致します。
また『アンナチュラル』の記事でお会い致しましょう。

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