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放射性廃棄物貯蔵所「オンカロ」とは?人類が挑む10万年プロジェクトの実態

投稿日:2018年11月7日 更新日:

 

現在、人類規模の大問題となっている放射性廃棄物。

原子力発電などを行う度に発生し溜まり続けているにも関わらず、その取扱いの難しさからまともな処理方法が確立されていないのが現状。

人体に完全に悪影響を及ぼさないようになるのは10万年の月日がかかると言われており、現存する人類史の累計すら遥かに上回る期間において今後我々の頭を悩ませると言われています。正に人類がもたらした「大災害」とも言うべき物質です。

その状況を打開するために現在建設されている「オンカロ」という施設をご存知でしょうか?

フィンランド語で「空洞・深い穴を」意味する言葉をあてがわれたこの放射性廃棄物処理施設について、この記事では取り上げて参ります。

※この記事はテレビ番組の特集内容を元に調べ、まとめて記事にしたものです。

地底520mまで掘ったトンネルに放射性廃棄物を封印する

「オンカロ」は地中に大きなトンネルを掘り、その中に放射性廃棄物を運び入れるために作られた施設です。

穴がいっぱいになった時点で施設を封鎖し、完全に手を付けられない状態にして無害化するまで10万年間保存するという壮大な計画のために用意されたのです。最終的には、その上に人間が住める状態を再現するまでを持って計画は完成するとのこと。

場所はフィンランドに属するオルキルオトという島で、長年地殻変動が起きていない世界的にも珍しい性質を持った土地です。これが、トンネルの耐久力に大きな悪影響を及ぼさないことで「オンカロ」計画に適合したため選ばれました。

放射性廃棄物の害が及ばない地底520mまで穴を掘り、そこから横穴を拡げて可能な限り埋没させて行きます。穴の掘削は現時点でほぼ終了しており、2020年から実際に廃棄を始める予定になっています。

封印を持って「施設の完成」と銘打っているため、その状態にできるのでさえ100年後の22世紀の予定です。この時点で今生きている人のほとんどがまともに活動できない年齢となっています。

このような莫大な予算と時間をかけて地中深くに埋めてしまうのなら、もっと他に良い方法があるのでは?と思う方も多いと思います。しかし、現在ではこの方法が最も確実な方法とされており、その裏付けもあります。これまでに実施及び検討されている方法論について、幾つかご紹介します。

水槽にて保管・管理→不確定要素が多い

現在はそれぞれの原子力発電施設にて、保存用の水槽を設けて可能な限り保管する方法を取っています。

しかし、この方法は未曽有の自然災害や戦争といった不確定要素を前にした時にどうなってしまうか全く分からないという非常に高いリスクを孕んでおり、一刻も早い改善が必要とされています。

こういった事態に関して、日本は正に当事者とも言うべき存在であり、多くの人にとって関心の深い事柄と思います。このような事態を2度として起こしてしまわないような対策や施策の準備が望まれます。

海に捨てる→生態系に悪影響の恐れ

最も簡便かつ誰でも思いつく方法として海に捨てるという方法があります。良いこととは言えませんが、深海の底に沈めてしまえば人間の生活には当面大きな影響がない可能性もあります。

ですが、逆に言えばそれは凄まじい悪影響を及ぼす可能性もあるということ。海に沈めた場合、深海に棲む生物を中心に悪影響を与え、生態系に大きな変化を与える恐れがあります。巡り巡って我々の口に入る海産物が全く機能しなくなってしまうかもしれませんし、ゴジラのような生き物が誕生してしまうかもしれません。

放射性物質が生物に与える変化については全くの未知数であるところも大きく、人類存亡の危機に繋がりかねない問題をもたらしてしまう危険性も高いです。

不確定要素の大きさから、この方法は現時点では非推奨とされており、1993年には海洋汚染防止を目的とした国際条約「ロンドン条約」によって全面的に禁止されています。

太陽に打ち込む→打ち上げ失敗のリスク

近未来的な方法論として、太陽に向けてロケットを発射し、地球外で処理してしまう方法も提唱されています。しかしこれは様々な科学的観点から全くと言って良いほど現実的ではないとされているようです。

まず最大の問題は、ロケットが打ち上げに失敗し地上に近い位置で大爆発を起こしてしまうことのリスクです。飛散した放射性廃棄物がどのようなダメージを地球上に与えてしまうか計り知れません。

現時点ではロケットの発射精度は決して確実なものとは言えない上、どれだけ技術が進歩しても失敗という問題は無くならないことから実現不可能ではないかということです。

他にも打ち上げたロケットが太陽に到達することの難しさや、ロケットを都度打ち上げるコストなどを考えても非現実的すぎる問題点が多く、理想的な方法論でありながらも、あくまで理想の範囲に留まってしまうのが現実のようですね。

現在最も信頼できる方法論

以上のことから、地中に深く穴を掘り、そこに廃棄物を密集させて封印する「オンカロ」計画は、現時点では最も効率的且つ確実な成果を上げることができるものとして、世界中から注目が集まっています。地中廃棄に関しては「オンカロ」が先駆けというわけではありませんが、これほど大規模なものは世界初。実運用の成果が期待されています。

しかしこの「オンカロ」計画には、最も根本的すぎる欠点が存在します。

誰もが考えますが、誰もが考えられない問題。それは時間です。「10万年この施設を存続させなければならない」という途方もない現実が待ち受けているのです。

いかにして施設の存在を"伝承"するか

現在の科学的分析では、トンネルの耐久度は10万年以上維持できるとされており、「オンカロ」そのものは完全に無害な状態を保ちます。なので物理的には(便宜上ではあるものの)問題がないというのは幸いです。

こうなると、最大の問題は人間という生き物の在り方です。

この10万年という保存期間は放射性廃棄物が「完全に無害になるまでに必要な時間」です。それよりも早くこの施設が解放されるようなことがあってはおよそ無意味になってしまうという現実があります。今後10万年を生き抜いていく人類に、この「オンカロ」という施設が立ち入ってはならない極めて危険なものであると伝えていくことができるでしょうか?

「オンカロ」を維持しなければならない時間は10万年。世界最古の文明とされるシュメール文明が今から5500年前と言われていますが、その18倍以上の時間で保存・維持が必要。人間の寿命を100年と換算しても1000倍です。1000代に渡って伝承しなければなりません。あまりにも途方もなさすぎる数字です。

現在では情報のデータ化により何かしらの形でネット上に残しておけば消滅することはないわけですが、10万年もあればそのデータという概念その物が失われてしまわないとも限りません。

そうなった場合、保存されていた全ての物が無に帰すわけですから、それ以外のアナログな方法での伝承も必要不可欠であるという前提で議論が交わされています。

この項ではその1部を取り上げて、この問題の難しさと向き合って行こうと思います。

6ヵ国語を書いた石板を用意する→言葉が消失するリスク

まず挙げられるのは現在使われている主要言語6つを記した石板を用意し、「オンカロ」の意味を示しておくという方法。原始的ではありますが古代から伝われている最もシンプルな方法ですね。

これについても10万年という長い年月を経ることで言語の在り様が変化し、石板が全くと言って良いほど無意味な建造物に移り変わっている可能性は大いにあり得ます。何を意味しているか完全には分からない歴史的遺産は現代にも数多くあるからです。

例えばピラミッド。
ピラミッドの建造が4000年前とすると、その20倍もの時間を保存する必要があります。かなり高い確率で6つの言語の全てが失われていると言って良いかもしれません。

データと同様に概念その物が失われてしまえば、残しておいても役に立ちません。こうなってくると現代の伝え方は全て無意味になる可能性を孕んでいることになります。

我々が今思いつく伝承方法のほとんどが、この議論においては効果的では無くなってしまうのです。

絵画を使って伝える→具体的には残らない

次に考え付くのは、人類にとって最も普遍的な価値観であり、未来永劫認識され続けるであろう絵画を使ったアプローチです。多くの文明が壁画という形で歴史を遺し続けているように、絵画には言語よりもはるかに高い伝承能力が備わっています。

しかし絵画は事実を膨らませ、想像力をかき立て、一部の出来事について抽象的に伝えるにはベストですが、具体的な物や事を的確に伝えるにはあまり向いていません。「オンカロ」のような施設の具体的な危険性を指し示して伝えるのは大変難しいと言えるでしょう。

こういった手法の欠点を埋める方法として「危険である」という1点に注目して描画した看板を立てるという方法がまた1つ議論されているようです。

例えば現代で最もネガティブな感情を刺激されるであろう絵画 ムンクの「叫び」を利用するという方法。あの何とも言えない嫌悪感が「オンカロ」への立ち入りを視覚的に抑制してくれることを狙いとしています。

一見最も的確で妥当な方法であると言えますが、ここで大きな問題となるのが人間の在り方です。駄目と言われると入りたくなる。そういった心理が人間にはあります。特に考古学者のような好奇心の塊のような人々は、未来でもそのような警告を軽々と無視することでしょう。

昔の人々は呪術的な要因で人を遠ざけるために警告を出していた側面もあるため、科学的には「危険ではない」とされているところも多くあります。だからこそ遺跡を探訪し、新たなる史実を解き明かすことが仕事として成立しています。

ですが「オンカロ」のような物理的に大変危険な施設を開拓されてしまうことは、現代とは逆に大いなる歴史的損失に繋がってしまう恐れがあるのです。

とは言っても、その違いを指し示すことは我々には不可能。その処断は未来の人類の手に委ねられています。でも全ての人間の行動をセーブすることもまた現実的に不可能な話でしょう。それを踏まえた苦肉の策として、次のような解決策も考えられています。

何も残さず、なかったことにする→発見された場合は?

「オンカロ」は最終的に施設の上に人間が住める状態を取り戻すところまでが計画の中身とされているため、その上に人間が住んでしまえば最早その街(集落)を地中深く掘り起こそうとする人はいないかもしれません。

何も残さなければ、誰かの目に留まる心配もなく、完全になかったことにできるのでは?という方法です。

「ある」と分かっている以上は掘り返されるリスクがあるので、なかったことにしてしまう。一見すると理に適っているように感じますが、この方法は「実際にはなくならない」というあまりにも根本的すぎる問題が付きまといます。

世界的に「何が起こるか分からない」以上、10万年間発見されないまま時間が過ぎることに期待するのはかなり危険であると言えます。新たな地下燃料を求めて島を掘り返すかもしれません。

我々には想像もできないような環境の変化があり、地中が求められる時代が来るかもしれません。こういった際に不慮の事故として発見されてしまった場合に巻き起こる混乱のレベルは計り知れないのです。

このように、全ての方法にメリットがあり、全ての方法に「かもしれない」というデメリットがあります。10万年という歳月を完全な状態にすることは、どれだけ考えても事実上不可能です。

たった1つの小さな穴でもあれば、リスクのどれかを現実に変えてしまうであろうほどに長い長い時間です。

では実際にどんな目印を残せばいいのでしょう?
どんな方法で人を納得させればいいのでしょう?

皆様には何か思いつくでしょうか?
途方もない議論は今も続いているとのことです。

まとめ

放射性廃棄物処理施設「オンカロ」について取り上げさせて頂きました。

この内容は誰にでも分かりやすい内容になるようまとめ上げた物であり、実際の社会情勢や科学的な問題点を加味して行くともっともっと枝葉が増えていく凄まじい問題です。興味のある方はこの記事以外にも調べてみてください。またこの「オンカロ」を題材に扱った『100,000年後の安全』という映画も公開されており、これらの問題が分かりやすく描かれています。

本当のことを言えば放射性廃棄物が出ない世の中を作ることが望ましいのでしょうが、現在稼働している原子力発電施設の全てを停止することは、様々な観点から不可能と言えます。今を生きていくには世界規模で原子力が必要な時代。これもまた「オンカロ」の伝承問題に繋がっている、人間の在り方に起因した問題なのでしょう。

こういった処理方法が実用化されていくことも意義深いことですが、少しでも廃棄物の実数を減らしていくことこそが重要です。一刻も早く原子力に変わる新たなクリーンエネルギーが活躍することが望まれます。

願わくば「オンカロ」のような施設が世界中に点在しているという状況になる前に、今の世界が変わって行くことを願って、この記事を終わりたいと思います。

皆様にとってこの記事が有意義なものになっていましたら幸いです。
お読み頂きありがとうございました。

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