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『楽園への進撃』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。10,000字ロングレビュー

2018年9月23日

引用元:『楽園への進撃』ジャケット

 

Linked Horizonの3rdシングルにして、『進撃の巨人』関連作品第3弾!

『楽園への進撃』がついに発売となりました!

リンホラの『進撃の巨人』関連作品は昨年発売された『進撃の軌跡』から1年4か月ぶり。アニメ3期に合わせての発表、発売となりました。

OPテーマがリンホラではなかったことや大規模な全国ツアーライブも行っていたことから、3期のリンホラ起用は見送られたとの見方も強かった次第。次はRevo氏によるソロプロジェクトSound Horizonに動きがあるのでは…という憶測も流れました。

しかしながら実際はアニメ放映中にリアルタイムでEDテーマとして「暁の鎮魂歌」が放送されるというサプライズ発表。これもまだまだ記憶に新しいですね。いつ曲を創っていたんだ…。

初のEDテーマ製作

今回のCD『楽園への進撃』は、Linked Horizonとして初めてとなるEDテーマを表題曲として扱ったものとなりました。

今まで『進撃の巨人』についてはOPテーマを担当し、音楽を軸とし作品展開を支えてきたリンホラ。3期にしてアーティスト変更に若干の寂しさはありつつも、妥当だと思うところも大きいです。

と言うのも『進撃』の3期に相当する部分の話は今までとはガラッとテイストが変わっています。

人間VS巨人から人間VS人間へ。
テーマソングという観点でも、その違いを出す創りは大いに納得できるものと個人的には思っています。正直リンホラがOPでも、今までのような曲を持ってくるのは違うかな…とも思っていましたし。

そんな中で、今までアニメ版『進撃』を支える1つの軸となっていたLinked HorizonをEDテーマに持ってくるという采配。これは今まで作品を共に背負ってきた彼(ら)だからこそできる仕事なのではと思いました。

現に「暁の鎮魂歌」はEDとして完璧な仕事をしていると思いますし、リンホラとしても全く新しい顔を見せてくれていると思います。

そんな曲を中心に創られた今回のCD『楽園への進撃』。今回も是非『進撃の巨人』ファンに手に取ってほしい1枚となっております。

CDの魅力が伝わるよう、精一杯したためて参ります。楽しんで頂けますと幸いです!

今回のレビュー記事は、先行して

【インタビュー】Linked Horizon、3rdシングル「楽園への進撃」に込められた“いま歌うべきもの”

Linked Horizon「楽園への進撃」インタビュー|初の「進撃」ED曲はRevoが手向ける鎮魂歌

Linked Horizonによるあらたなる進撃!3rdシングル『楽園への進撃』リリースインタビュー

こちら3つのインタビュー記事を確認した上で執筆しております。あたかも僕が自分の言葉で書いているような部分がこれらに書かれているRevo氏の言葉だったということがあるかもしれませんが、ご容赦頂けますと幸いです。

なお、こちらの記事でも過去記事同様に敬称を略しております。合わせてよろしくお願い致します。

シングルCD『楽園への進撃』の全体像

今回のCD『楽園への進撃』には3期EDテーマ「暁の鎮魂歌」を含む3つの楽曲が収録されています。

昨年発売したコンセプトアルバム『進撃の軌跡』は、キャラクターをフィーチャーした楽曲を中心に創られたものでした。今回のCDは『進撃』の3期にて重要となってくるキーワードをモチーフとした楽曲及び、3期放送時点での『進撃の巨人』という作品から見える作品感を強く表出したものとなっています。

この創りはどちらかと言うと最初のシングルCD『自由への進撃』のテイストを踏襲しているものです。2枚のシングルCD同士は連結して繋がりが考えられているようで、アルバムは1枚の独立したCDということのようですね。

シングルCD『自由への進撃』のテイストを維持しつつも「進撃のイメージ」よりも更に「進撃の世界」に実直に目を向けた作品と言えるでしょう。

言うなれば『自由への進撃』は前のめりなOPテーマを中心とした「勢いで聴くCD」でした。それに対し『楽園への進撃』は噛み締めるように進撃の世界の残酷さを改めて「堪能できるCD」となっています。

同じ3曲構成のCDでも楽しみ方がまるで違うCDとして完成されているのが特徴的ですね。

特筆すべきは、シングルCDとしては珍しい表題曲を3曲目に持ってくるという構成。
ただRevo慣れしている我々からすると大して驚くことでもない気はする。

通常は3曲あれば1曲目が表題曲、2曲目以降はカップリング曲という扱いになります。それを敢えて3曲目に持ってくるという手法は、音楽CDとしては邪道ともいうべきもの。ですが、1枚のCDで作品感を描くということになると、話は変わってきます。

つまり1枚のシングルCDで「進撃の巨人の世界」を表現するに辺り、「暁の鎮魂歌」という曲の性質を最も活かせる位置が3曲中の3曲目だったということです。

こういうところからもRevoはあくまでも自分のCDの中で、『進撃の巨人』という作品を表現することだけを1番に考えているのが分かります。

相変わらずオタクしてる――いや違う、物凄く熱い男なのです彼は。男から見てもカッコイイくらいまっすぐに作品と向き合っています。

今まで『進撃の巨人』でLinked Horizonの音楽に触れてきた方々には、そのRevoの熱意が強く強く伝わっているとは思うのですが…。TVサイズからでは伝わらない更にその先の深淵に触れるのに、『楽園への進撃』というCDはベストなはたらきをしてくれると思います。

楽曲紹介&レビュー

上の全体コンセプトを読んで興味を持って頂けた方にはこちら!1曲ずつ丁寧に紹介&レビューしていきます。

今回は3曲しかないから楽だわ。
前回→『進撃の軌跡』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。14,000字ロングレビュー

その分、密度濃く行けるように頑張ります…!!

黄昏の楽園

嗚呼…束の間の楽園を 仮初めの楽園を
残酷な優しい《夢》
黄昏の理想に 宵闇の誓いに 暁への花束を

今回のCDの楽曲で唯一、発売日まで一切の情報が出なかった楽曲です。あえてシークレットにしたい理由があったとのこと。

実際、この曲については様々な憶測が飛び交っていたのです。

やっぱり1曲目だから激しめのロックナンバーじゃないかとか。それだと『自由への進撃』と構成が被るからもっと変化球じゃないかとか。

1曲目をあえて秘匿するということは、音楽CDの方向性を惑わせること。

「暁の鎮魂歌」という表題曲が収録されているとはいえ、それとは別に「1曲目」というものが大きな意味を持つことが分かります。

しかし、聴いてみればRevoの狙いも一発で分かる。そんな楽曲。歌詞カードを見ても一目瞭然でした。

この曲は言わずと知れた名曲「ジングルベル」を彷彿とさせるポップなメロディーからスタート。そしてメインボーカリストは設定されておりません。

その全容はなんと子供合唱団による合唱曲でした。1曲目に誰もが全く想像していない明るい曲を持ってきた上に、子供の可愛い声が頭に響いてくるという度肝を抜かれる展開。

Sound Horizonというアーティストを経験し、Revoを知り尽くしてLinked Horizonを聴いている古いファンにとっては実は「初めての感じ」ではありません。むしろ懐かしさすら感じるものではあります。

しかし、全編を子供の合唱曲でまとめるということは今までに1度としてなく、更にそれが1曲目に来ているというのも異例中の異例です。

流石にこれは最初聴いた時に「うおお、そう来たか」と思ってしまいました。まんまとして我々はRevoという男の術中にハマってしまったわけです。

「楽園」という言葉通り、軽快で愛らしいポップナンバーとして始まる「黄昏の楽園」ですが、『進撃の巨人』において、「楽園」という言葉がどれだけ捻じ曲がった意味を持つかは、この記事をお読みの方々の多くはご存知でしょう。

エレン達が壁の外に何者にも囚われない「楽園」を見出して進撃しているというのがまず1つ。でもそれはあくまでストレートな見方。その壁の中を巨人に襲われず、外界からの干渉を一切受けない「楽園」と評価する者達もいる。

誰かによって作られた「楽園」を押し付けられるままに享受する幸せというのも、『進撃』の世界の根幹を担うものでもあると思います。更に原作を読み進めて行けば、「楽園」というキーワードは更に残酷で凄惨な意味を持つ言葉だということも分かります。

それでも子供達は歌います。

大丈夫 心配ないんだよ
いつまでもここにいればいいよ

楽園 楽園
楽園 楽園 だからね!

まるでその「楽園」の中に全てを閉じ込めておきたいかのように、無邪気に語りかけてきます。「楽園」という概念を押し付けてくるように。そこを「楽園」だと思えと言わんばかりに。その歌唱は徐々に狂気の色を帯び始めます。

だんだんと子供達の歌が不気味に聞こえてくるようになった段階で、曲もだんだんと不穏になり、歌詞も本性を現します。後半に向けての盛り上がり。この音楽的展開も実に見事と言わざるを得ません。

この曲の見事なところは、普通に聴いていると別段「おかしな曲ではない」ということだと思います。いきなり転調したり、曲が滅茶苦茶な別物になってしまうということもない。

ギリギリで子供たちが歌う「かわいい曲」の形を最後まで保っている。何も知らない人が聴けば、何も気にしないで素通りして行くかもしれない曲です。

その状況、これが「かわいい」で済んでしまう現実すらも、最早狂気の具現と言えるでしょう。作品を知っている我々が聴くと、その部分が壮絶に捻じ曲がった違和感となって襲いかかってくるのです。

「崩壊」ではなく、「ズレ」なんですよね。
その「ズレ」を認識できる人って実はそんなに多くはない。そういうメッセージが込められているのかもしれません。にしても、こんな歌詞とこんな難しい音程とリズムの曲をよく子供達が綺麗に歌えるものだと感心してしまう。全く知らない親御さん達はどう思ったんだろう…。

この曲、実は『自由への進撃』に収録されている「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」対となる楽曲です。

楽曲も「もし壁」のアウトロのオルゴールから繋がるように作られており、これを持って『自由への進撃』と『楽園への進撃』が連結したシリーズであることも示唆されています。

壁の外に「楽園」を見出して、外に飛び出そうとする楽曲。壁の中に「楽園」を見出して、中に閉じ込めようとする楽曲。

『自由への進撃』の発売当時では決して生まれなかったであろう「黄昏の楽園」という楽曲が繋がるというのも1つの妙ですね。

余談ですが、「楽園」というワードと無邪気さの中に垣間見える狂気、そしてオルゴールから始まる1曲ということで、サンホラ畑にいると色々想像した方は多いと思います。この辺りにリンクさせているのも意図的でしょう。

過去に「楽園」というテーマで閉鎖された狂気を描いたアーティストだからこそ、こういった楽曲が生まれたとも言えます。憶測ですがRevoにとって、過去のブラッシュアップという意志も入り混じった楽曲だったのかもしれません。

歌詞には別作品のアルバムである『ルクセンダルク大紀行』のものが引用されていたりもします。相変わらず作品の垣根を曖昧にするのが好きなようです!!

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革命の夜に

本当の敵は何か? 本当の王はどこなのか?
この世界に果たして 救いはあるのだろうか?
嗚呼…『楽園』はどこにある?

扉を閉じられる音と共に始まる2曲目はこの「革命の夜に」過去のOPを彷彿とさせるシンフォニックメタルナンバー。

「こういうのがそろそろ欲しいんじゃないか」という希望に応えたものらしい1曲です!分かってる!

黄昏から夜へ。
楽曲のタイトルで時間の流れを感じさせるのが今回のCDの特徴です。

ボーカル担当は子供達からRevoへ。鎖地平団ここにありという感じでしょうか!これは壁の中で「新しい敵」と戦うエレン達の苦悩や決意を象徴した1曲に仕上がっています。

OPのような曲なのですが、OP用に創られているわけではないというのがポイントでしょうか。要するに、必要尺の制限がない分自由なのです。アニメOPカットを切り抜かなければならない今までの楽曲と比べると、その辺りに遊びが見えるのが良いですね。

そして過去のOP楽曲達に比べると圧倒的に後ろ向きなサウンドとなっているのが特徴的。

ブラスバンドなど管楽器が全体的に控えめに動いており、その分ストリングスやピアノ、シンセによる音楽展開でしっとりと仕上げている。そしてギターを抑えベースの音を強く立てることで、より後ろ暗くも根底にある力強さを表現していると思います。

前述した通りアニメの3期は人VS人の闘いがメインとなるストーリー。今までのように人あらざる化物を駆逐しているのとはわけが違います。

人が人を殺すというのは、巨人殺しのプロである彼らにとっても決して軽い話ではない。1期では「前に進みたい」だった意志が、2期では「前に進むべき」に変わり、3期では「前に進まなければならない」に変わっていると僕は思っています。

ついに目的に向かって実直に進んで行けば良いというわけではなくなった。やりたくないことをしなくてはならなくなった。

そんなエレンを始めとする調査兵団の面々の苦悩。本当に正しいことをしているのか、これを続ければ救われる日が本当に来るのか。全く先が見えない現実に打ちひしがれる彼らの複雑な心境が、激しい曲調の中で表現されていると言えます。

Cメロの途中からサビに相当する部分に関しては、クワイヤも増し増しで今までのような非常に攻撃的なサウンドが垣間見えるのがとても良い。ここの音楽的な緩急の付け方が、今までと違っているように見えてその実、本質的には変化していない彼らの意思が表現されているように思うのです。

「革命の夜に」には、このような「今までの楽曲を聴いているとより楽しめる」要素が散りばめられています。知識的なことだけなく、感覚的に今までの違いを認識できるように創られていると思います。

「紅蓮の弓矢」とイントロを同じくしながら、全く違う音使いを使うところから始まり違いを明確化しているところなどは分かりやすいところですが、他にもたくさんあります。

個人的に好きなのはBメロの「吹き荒れる風に 舞い落ちる」というフレーズ。このフレーズ、過去曲に幾度か登場したメロディで歌唱されているのですが、上がり調子でずっと使われてきたものです。いつもなら勢いをつける時に引用されることが多いメロディでした。

「革命の夜に」では、「舞い落ちる」というフレーズに合わせて音が落ちます。記憶する限りでは初めて落ちます。当たり前のように上がると思っていたら落ちたのです。

そして直後の「見送る背中で 舞い上がる」でいつも通り音が上がります。ここでちょっと安堵感を覚える自分がいました。

こういう細かいところで、今までとの違いを出してくるのがRevoという男。過去の曲のメロディラインを一部に引用しながら、全く違う曲に組み替える巧みなクリエイティブ能力が為せる技です。

『進撃の巨人』のアニメに長く触れている人ほど、楽しめる楽曲になっていると思います。今までのOPテーマとの違いを是非感じてみてほしいです。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。美少女よりイケメンを好み、最近は主に女性向け作品の感想執筆を行っている。キャラの心情読解を得意とし、1人1人に公平に寄り添った感想で人気を博す。その熱量は初見やアニメオリジナル作品においても発揮され、某アニメでは監督から感謝のツイートを受け取ったことも。

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